2019/04/04

「金銭に頼らないモチベーションが重要」という勘違い

パフォーマンスを高める内発的動機づけ

「やる気が出ない」「いまいちモチベーションが上がらない」などとはよく聞く言葉です。これがプライベートの話であれば「ああそう」と片付けられるのですが、仕事場でこのような声が出始めたらそう簡単には片付けられないでしょう。
特に最近の若手はお金や出世などの報酬ではなかなか動かない傾向にあると言われていますから管理職もやる気を出させるのに四苦八苦するかもしれません。

 

そんな中で、いかにやる気を出すか、出してもらうかを研究するモチベーション論が脚光を浴びています。大手通販サイトで「モチベーション」と検索するとモチベーション大百科、モチベーション革命、モチベーション3.0などの書籍がベストセラーになっていることからもモチベーションをコントロールすることの難しさが伺えます。

 

モチベーションについて語るとき、良く引き合いに出される、あるいは理論のベースとなっているのは、アメリカの心理学者デシの動機づけ論です。
彼によると、人は金銭などの外部の報酬によって促される「外発的動機づけ」より、その人の内側から行動が促される「内発的動機づけ」の方が高いパフォーマンスを持続的に生み出すことができるそうです[1]。

 

なるほど、確かに報酬を前提とした行動は、その報酬がなくなってしまえば喚起されませんが、心から楽しいと思えることは周囲の働きかけがなくても全力で取り組むことができそうです。
また、内発的に動機づけられていた行動に金銭的な報酬、つまり外的な報酬を提示すると元々あった内発的な動機づけが弱まるというデシの研究結果もあります。
これは「アンダーマイング効果」と呼ばれる現象です。

 

このような考えから、人を動かすには外的報酬によらない内発的動機付けが重要であり、ポテンシャルを低下させる外発的動機づけはできる限り避けるべきだという風潮が一部で生まれつつあるように感じられます。
たとえば「アンダーマイニング効果」で検索するとそのような意見が顕著に表れます。
しかしこの、極端に言えば内発的動機づけが善で外発的動機づけが悪であるかのような二元論に陥ると根本的な方向性を間違ってしまうのではないでしょうか。

 

これって本当に内発的動機づけ?

私が以前働いていた職場では、思いやりや助け合いの精神、あるいはより良い職場にしようという気持ちからか度外視で働く人が何人もいました。
彼らは上司に言われたのでもなくプラスアルファの業務に取り組みましたし、その姿勢は優秀な社員のそれに見えたでしょう。
私自身、そういった人達に何度も助けられましたし、私もそのように働いた経験があります。
また、自分自身のそのような行動に使命感や達成感、あるいは得も言われぬ感動を覚えたことも事実です。しかし後になって考えれば、これらの行動が内発的動機づけによってもたらされた行動かといえば疑問が残ると言わざるを得ません。

 

内発的か外発的か判断することは極めて難しい

外発的動機づけと聞くと金銭や昇進などのわかりやすい報酬を考えがちですが、実は他者から褒められる、あるいは怒られずに済むなど外的な刺激も含まれています。
外部からの報酬という意味では有形も無形も関係ないからです。目に見えない刺激が外発的動機づけの要因になると考えた場合、外から見てその人が内発的な動機で行動しているのか外発的な動機で行動しているのかは判別することは極めて難しくなります。

 

たとえば、好きなゲームをしたり、スポーツに没頭したり、旅行に行ったり、飲みに行ったり。
これらは誰にも強制されずに好きでやっていることだから内発的動機付けだと思われがちですが、実際は外発的な刺激が伴っている場合も多いです。
確かにスポーツなどの行為自体に楽しさを感じる、つまり内発的動機づけも確かに存在するかもしれません。
しかし一方で、ナイスなプレーをすることで他者より優位に立てる感覚が得られたり、あるいは活動を通して良好な人間関係の構築ができていたりするというメリットもあり得ます。
つまり外発的動機づけが作用している可能性も十分あるのです。

 

仕事に関して言えば、指示外の業務を行うことで「献身的で仲間思いな社員」という自分のキャラクターを形成・維持できたり、仕事ができる自分を周囲に演出したい狙いが無意識的に行動を促していたりする可能性もあります。
そしてこれらの動機は、使命感や責任感のような曖昧な感情となって実感することも多い。つまり私たちの行動の大半は、内発的・外発的双方の動機がないまぜになっており、自分自身にさえもどちらが優勢であるか判別することは難しいのです[2]。

 

内発的か外発的は本当の問題ではない

行動の動機が内発的か外発的か判別することが難しい以上、その点に固執することに意味はないのではないでしょうか。
本質的な課題は金銭などの外的報酬に頼らないことではなく、その人にとって持続的・安定的に高い価値を持つ報酬を提示できるかどうかということでしょう。

 

一昔前は、一昔と言っても30年程度はさかのぼることになりますが、金銭や地位が今よりずっと高い価値を有していました。
しかし物や情報が溢れ、なおかつ低コストでそれらにリーチでき、さらに終身雇用の神話が崩れつつある現代では、以前ほど金銭や物的報酬、社会的地位などが高い価値を生まなくなったのかも知れません。
その意味では、社員のモチベーションを保つことはより難しい課題となったと言えるでしょう。このような現代において強力かつ持続的な原動力となりうる、まさにゴールドのような普遍的な価値を掘り当てることはできないのでしょうか。

 

それでも役に立つ内発的動機づけ論

普遍的で持続的な報酬とは何かを考える時に、あえて立ち返りたいのがデシの動機づけ理論です。彼は内発的動機づけにおいて重要な要素として「自律性」「有能感」「関係性」の3つを掲げました。
自律性とは自分の意志が尊重されること、有能感とは他者より優れていることが証明できること、関係性とは周囲と良好な関係を築けることです。
行動の報酬として個の3点が満たされると内発的動機づけが強化されるとデシは主張したわけです。

 

外発的な動機か内発的な動機かはともかくとして、この3要素は社会的動物である人間とって普遍的かつ非常に大きな報酬となり得ると考えられます。
誰だって他者と良い関係を築きたい、あわよくば優位に立ちたいと考えるのが本音でしょう。自律性は、自分の意思が社会に認められるというアイデンティティの確立にも繋がります。
マズローの欲求段階説で言えば、社会的欲求と承認欲求を満たす要素でもあります。

 

特に自律性は、他の要素と比較して教育や指導、業務に組み込みやすいと考えられます。
有能感や関係性は他者のリアクションが関与するデリケートな要素ですが、自分の意志で選ぶという自律性はシステムとして取り入れやすいからです。
1から10までを自分の意思で決めてもらう必要はなく、複数ある選択肢から1つを選ぶであるとか、作業(仕事)に使用する道具や環境を選べるだけでも自律性は満たされるとされています。
これなら新入社員や若手社員などの責任を取ることが難しいレベルに対して取り入れることも十分可能でしょう。

 

心からやる気が促される内発的動機づけは確かに魅力的ですが、言葉に踊らされて本来の目的を見失っては本末転倒です。
内発的報酬が価値を持つのはそれが持続的かつ高いパフォーマンスを生み出すからです。しかし、内発的か外発的かを判別するのが難しい以上、その点に固執するのは費用対効果が高いとは言えません。
外発的な動機づけを求めるプロセスで内発的な動機づけが強化される可能性も十分あるのです。
大切なのは何が彼・彼女にとって高い価値を見出すかを広い視野で分析し、いかにそれを最大化できるのか考えることなのではないでしょうか。

 

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参照

[1]エドワード・L・デシ「人を伸ばす力 内発と自律のすすめ」新曜社、1999年[2]http://blog.koreboku.com/entry/2014/01/07/235951