2018/10/24

「食の未解決課題」が生むイノべーションはどのようなものか

衣食住の中でも「食」は人間が生きる上で切ってもきれない要素です。
常に人類は食に関する課題を抱えてきました。
それは21世紀の現在でも変わりません。
食について考えることは、すなわち社会について考えることでもあります。
ここでは現在の世界や日本が抱えている食の課題や、社会とのつながりを解説し、
それらを解決しようと生まれたイノベーションについても紹介します。

 

世界は「食で」危機に瀕している

国連の「世界人口白書」によれば、2011年10月末時点の世界人口は推計70億人に到達し、2050年までには90億人に到達するとされています。
人類は増加した20億人分の食料を確保する必要に迫られました。
トークイベント「TED」への登壇経験もある環境科学者ジョナサン・フォーリーは、人口増加に加えて中国、インドなど新興国の経済発展に伴い、2050年までに世界は作物の生産量を2倍に増やす必要があるとしています。

 

だからといって単純に農業用地を倍にして、生産量を倍にすればいいというわけではありません。
農業は、環境破壊の大きな要因になり得るからです。

 

家畜と水田から排出されるメタンガス、肥料から出る一酸化炭素、農地開発のための森林伐採による二酸化炭素を合わせた量は、自動車や航空機などから排出される温室効果ガスの総量を上回っています。
さらに農業は大量の水を必要としますし、肥料や家畜の排泄物は、それらの流出先である湖や沼、河川などの生態系の破壊につながっています。
農地が拡大すればそれだけ野生の動植物の生息域は縮小するため、むやみに農地を開発し、作物を育てると野生生物に影響が出るといいます。

 

単純に農業用地を倍にするのでは事態はさらに悪化し、最終的に人類は自分で自分の首を締めることになるでしょう。

 

日本が抱える「食の課題」とは?

コンビニに行けば24時間いつでも食料が手に入る日本でも、食の課題は山積しています。

 

世界食料援助量の2倍近くある「食品ロス」

例えば食品ロスの問題があります。日本ではまだ食べられるにもかかわらず廃棄される食べ物が、年間で646万トン発生しているとされています(「農林水産省調べ、2015年度の推計値)。
これは日本人1人が毎日茶碗1杯分(約140グラム)を毎日欠かさず捨てているのと同じ量です。

 

2014年に飢餓で苦しむ世界の人々のために援助した食料の量が年間約320万トン。その2倍近くを日本人は無駄にしているのです。
なお食品ロスのうち半分に当たる282万トンが家庭から出る食べ残しです(同上)。

 

栄養不足なのに肥満

栄養不足も日本国内にある深刻な問題の一つです。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2016年)によれば、2006年からの10年間で日本人の野菜の摂取量は減少しており、2016年時点での男性平均摂取量は1日283.7グラム、女性は270.5グラムとなっています。

 

同省が推奨している野菜摂取量の目標値は「1日350グラム以上」ですから、男女ともに20%程度野菜が不足しているということです。他方で肥満化が進行しているのが今の日本人の食の問題なのです。

 

全世代に広がる「孤食」

日本では、1人で食事をする「孤食」の増加が問題視されています。

農林水産省は20代から70歳以上を対象に、「1日に1人で全ての食事をとることがどの程度あるか」と質問したところ、70歳以上の女性が26.0%、20代の男性は25.4%と、4人に1人が「ほとんど毎日」と回答しています。
「週に4〜5日ある」と答えた人も含めれば、男性はほとんどの世代で20%以上が孤食の状態にあるということです。

 

また子ども世代の孤食化も進んでいます。
NPO法人食生態学実践フォーラムの足立己幸理事長らによる2000年の調査によると、調査対象となった全国の小学5年生のうち26.4%が「1人で食べる」、24.5%が「子どもだけで食べる」と回答しています。
孤食は栄養の偏りやストレスの増加につながるとも指摘されており、解決するべき食の課題なのです。

 

「食の課題」を解決するイノベーション

このような状況を解決しようと、さまざまなイノベーションが生まれています。

 

店舗などからの食品ロスを有効活用する「TABETE」

コークッキングが展開するフードシェアリング事業「TABETE(タベテ)」は、食品ロスを削減するためのサービスです。
例えば閉店間際のパン屋でロスが発生しそうになったら、パン屋はTABETEに値段と引き取り時間を設定して掲載します。
これを見たTABETEの利用者(消費者)がクレジット決済をすればマッチングが成立。あとはパン屋がTABETE用のパックに商品を詰めておき、食べ手はこれを受け取る流れです。

 

お店は食品ロスが減らせる上に、売上アップ、廃棄コストの削減、新規顧客獲得にもつながるでしょう。
食べ手は食事を安価で手に入れられる上に新しいお店の発見にもなります。
これは地球環境への配慮にもなるので、TABETEは三方良しのサービスと言えるでしょう。

 

子どもの孤食を解決する「こども食堂ネットワーク」

こども食堂ネットワーク事務局が運営する「こども食堂ネットワーク」は、孤食状態の子どもたちやその親が低価格もしくは無料で食事できる「こども食堂」の情報を掲載するサービスです。

 

全国にはさまざまなこども食堂がありますが、主催者はNPO、主婦らのボランティアなどがあります。また、どれくらいの頻度で開かれているのか、どのような人が何人くらい来ているのか、どんな場所で開いているのかが明らかになっていない場合があります。

 

そのため子ども食堂がビジネスとして確立されているとは言えませんが、こうした緩やかなネットワークを作り出すこともイノベーションの一つと言えるでしょう。

 

栄養不足とは無縁になる?「完全栄養食」

「食品をバランスよく食べられないなら、一つの食品ですべての栄養を摂取すればいい」という考えのもとに生まれたイノベーションが「完全栄養食」です。
この分野で飲み物や食べ物、形はさまざまですが、いろいろな商品が開発されています。

 

2014年4月にクラウドファンディングを利用して製品化されたのは、ジョージア工科大学卒の25歳の青年ロブ・ラインハートが開発した「ソイレント」です。
彼は開発段階で、1ヵ月間あらゆる食べ物をこのソイレントに置き換え、自身のブログに「わたしはいかにして食べるのをやめたか(How I Stopped Eating Food)」というタイトルの記事を投稿しました。
彼はそこで食費は減り、にもかかわらず体質や肌ツヤ、歯や髪、頭のフケに至るまですべてが改善したとつづりました。
これが話題になり、クラウドファンディングの成功につながったのです。

 

まだ日本ではソイレントを購入できませんが、日本で手に入る完全栄養食もあります。コンプという会社は牛乳のように飲むだけの「COMP DRINK」、粉末を液体に溶かして飲む「COMP POWDER」、持ち運びに便利な「COMP GUMMY」など、さまざまな形状の完全栄養食を販売しています。
同社は食べる行為は栄養をとる行為であると捉え、顧客に満足感や幸福感を得るために食事をとってもらいながら、「こころも満たし、カラダも満たす」状態になるよう目指しています。

 

ベースフードが開発した「BASE PASTA」も「完全栄養食」のパスタです。パスタだけでもフェットチーネとスパゲッティの種類、さらには低糖質低カロリー、塩分控えめの専用ソース選べます。
こちらは機能に特化したソイレントやCOMPシリーズとは異なり、いわば満足感や幸福感を得るための食事と、栄養をとるための食事の両方の要素を満たそうとする商品と言えるでしょう。

 

世界の食の課題でもイノベーションは起きている

世界レベルでもイノベーションは起きています。
例えば養豚場の糞尿をメタン発電に再利用する技術を実用化したところもあれば、環境消費の大きい家畜に代わる食品として「食用コオロギ」を生産している会社もあります。

 

生産効率を上げるために少ない水と肥料で育つとうもろこしや大豆の開発を進めたり、洪水や豪雨の多い地域向けに、水没しても枯れにくいイネの開発に力を注いでいるのはアメリカのモンサント社。
家畜に比べて魚の養殖は環境負荷が小さいとされていますが、中米のパナマ沖に世界最大の沖合養殖場を持つオープンブルー社は、何十万匹という数の魚を飼育しながら、周囲の海をほとんど汚さない仕組みを確立しています。

 

多様化する食は「ビジネスチャンスの宝庫」

家に帰って家族と一緒に食事をするのが当たり前の時代はすでに終わり、誰と食べるか、何をどう食べるかなど、あらゆる要素で食は多様化しています。
以下では食の課題の根源にある社会の課題とのつながりを確かめ、多様化する食をビジネスパーソンはどのように見るべきかを考えます。

 

食の課題は社会の課題とつながっている

ここまで紹介してきた食の課題は、すべて社会の課題とつながっています。日本の抱える課題である食品ロスは、実は孤食とつながっています。
孤食は共働きや少子化、晩婚化が原因として挙げられますが、外食や中食などの加工食品への依存も大きな要因でしょう。
すると家庭内で料理文化が継承されず、個人の料理スキルが低下していきます。
いざ自炊をしてみても作りすぎてしまい、食品ロスにつながるのです。
また孤食による加工食品への依存は偏食を招き、ここで挙げた課題の最後の一つである栄養不足へとつながります。

 

さらに言えば、共働きや少子化、晩婚化は日本経済の低迷にも関係しています。
かつては男親が働きに出ていれば一家の生活を支えられましたが、今の日本では大半の過程が共働きをせざるを得ない状況です。
そのような状況では「結婚をしよう」「子どもを増やそう」と考える前に資金面で断念することになります。

 

冒頭でも述べたように、食は人間の生活と切っても切れない要素です。
そのため人間が寄り集まる社会から非常に濃い影響を受けるのです。

 

「多様化する食」が持つビジネスとしての可能性

社会の価値観が多様化していくなかで、食に関する価値観も今後さらに多様化するでしょう。
機械的な栄養摂取を食事のベースに置く人もいれば、肉を食べずに安価でエコな昆虫食にシフトする人もいかもしれません。
当然、そのままの食生活を続ける人もいるでしょう。

 

このような状況でビジネスパーソンが着目するべきは、食の課題の解消を目指せば、紹介したようなイノベーションへの道が開ける可能性があるという点です。
「食の課題」というとビジネスパーソンは、つい消費者の立場で考えてしまいがちです。
しかし食の課題はすなわち社会の課題です。
そうだとするならば、どのような業界でも食の課題とは無関係ではいられないでしょう。

 

宮城県山元町で作られている一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」は、GRA社のプロデュースで誕生した商品です。
しかし同社の岩佐大輝CEOは、もともと農業に携わっていたわけではありませんでした。
大学在学中にITコンサルティング会社を立ち上げた岩佐さんが農業に関わり始めたのは自身の故郷・山元町が東日本大震災で大きな被害を受けたからでした。
それまでに学んだMBA、ITの知識を動員して、ミガキイチゴのブランディングに成功。労働集約型産業で生産性が低いとされる農業分野で、高収益商品を生み出したのです。

 

食の課題は文字通り山積みです。
しかしそれは同時に「価値あるイノベーション」が生まれる可能性が高いということでもあります。
ビジネスパーソンは「食の課題は自分の仕事と関係がない」と思い込まず、「食の課題=ビジネスチャンスの宝庫」であると考え、自分や会社がどのように参入できるのかを検討するべきなのではないでしょうか。