2019/02/28

履歴書は立派だが、仕事をしない人たちについて。

少し前の話だが、あるメーカーでCFO(最高財務責任者)をしていた時の話だ。

年商は50億円程度なのでそれほど大きな会社ではなかったが、業界初となる先進的な技術で売り出し中であり、知名度はとても高い。

未上場マーケットでもIPO本命銘柄などとおだてられ、資本金は5億円を超えるまで膨れ上がるほどの投資が集まっていた、人気企業だった。

 

筆者がその会社のCFOに招かれたのは、そんな注目を集める会社の数字が思わしくなくなっている時だった。

売上はそれほど悪くないのに、まったく損益分岐点を超えてくる様子がない。

投資で集めた、潤沢であった自己資金もこのままで行けばすべて溶かしてしまうかもしれない。

そんな危機感を持ったメインバンク系のVC(ベンチャーキャピタル)から打診され、就いたポジションだった。

 

「火中の栗を拾う難しい仕事だけど、驚かないでね」

馴染みの投資部長さんの言葉がやや気掛かりではあったが、直近のB/S(貸借対照表)はこっそり見せてもらっており、ある程度体力が持つことはわかっている。

 

P/L(損益計算書)は確かに危機的だったが、原価率を見てもコスト管理がずさんであることは明らかだったので、まあ何とかなるだろうと。

安易な思いでCFOに着任したが、そんな筆者の楽観的な思いはすぐに叩き潰された。

 

その会社は、施策の問題ではなく、正しい数字が全く把握できない状態にあったからだ。

月次決算が上がってくるのは、月末で数字を締めて翌月末近くになる。

さらにその数字も、仕掛りや在庫棚卸が全く反映されていないのは序の口で、発生主義と現金主義が混在しており、計上の基準が存在しない。

経理部ではその問題を理解していたものの、結局各部署から上がってくる数字をそのまま打ち込むという作業がルーチンワーク化していたので、わざわざ改善しようというものはいなかった。

 

そのようにして出来上がった「月次決算」の数字を基に、翌々月の10日に役員会を開催し、原因究明と対策を話し合うのである。

このような会議で、有効な経営会議が開催できるわけがないことは明らかだ。

そのため筆者はすぐに、

・月次決算を締めて10日後には、数字を把握できるようにすること。

・役員会は月末締めの数字で、翌月15日をめどに開催できるようにすること。

・その上で、リアルタイムに近い数字で議論できる仕組みを整えること。

といったことを目標に、最初の大仕事を開始することになった

 

 

素人に何ができるのか

ところで、役員として重い責任を担いながら、全く知らない業界や業種に飛び込んだ場合。

それでもなお、CFOがどのように成果を出そうとするのか、その考え方をご存知だろうか。

CFOなら誰でも共通とまでは言わないが、筆者の場合まずは「正常値」と「異常値」を把握できる仕組みづくりから始める。

 

売っている商品の特性や強み、業界におけるポジションと言ったことなど、もちろん最初は知りようがない。

しかし、数字を統一の基準で整理し、その数字を前年対比、前月対比、前年同月対比といった形で様々なモノサシから観測すると、必ず正常値と異常値が浮かび上がってくる。

 

ある月だけ水道光熱費が前年同月対比で2%高いのであれば、それは確実に異常値だ。

そこから水道代、電気代、ガス代の、どの数字に異常値が発生したのかを証憑で特定し、さらにその月だけ例えば電気代が高かった理由を突き詰めていけば、必ず原因がわかる。

 

この場合は、例えばデマンドと呼ばれる、産業用の電気代を決定する要因の1年に1回の改定が当月にあったことが原因であったことが判明したりする。

原因が分かれば、後はこの事実を経営会議に提示し、部門長に対しこのリスクにどう対応するのか。

もしくは各部署の責任者がそれぞれのポジションから、この問題に何ができるのか知恵を出し合うだけだ。

このようにして、経営会議は成立する。

 

それがCFOの仕事の一つであり、これは未経験の業界や業種といったことに関係のない、原理原則の整理に過ぎないと言ってよいだろう。

 

正直、CFOにとって本業ともいい難い初歩中の初歩なのだが、しかし案外、この程度の事ができていない会社が多く、そのためこれだけでも重宝されたりする。

 

しかし前述のように、この時私が仕事を引き受けた会社ではそもそも、その比較対象になる数字が絶望的にアテにならないという状況だったということだ。

そのためやむを得ず、まずは会計基準と帳票の整理という大仕事から着手せざるを得なかった。

 

 

履歴書は立派だが、仕事をしない人たち。

話は急に変わるようだが、2018年度の人材関連ビジネスの市場は、7500億円規模にまで成長したそうだ。

まさに、巨大市場である。

なおここでいう人材関連ビジネスとは、人材紹介、再就職支援、人材派遣の3業種を指す。

このマーケットは、2011年には3900億円であったというのだから、わずか7年で倍増したということになる。[1]

それほどまでに、世の経営者は優秀な人材を高い紹介料を支払ってでも、得たいということなのだろう。

だが、採用する企業側で本当にこのサービスを使いこなせているのだろうか、という疑問がある。

 

終身雇用制度が崩壊しつつある日本において、人材の流動化、とりわけキャリア人材の流動性を高めるこれらサービスに一定の有用性があることに疑問はない。

しかしながら、採用の受け皿となる企業において、どこまでキャリア人材の目利きができているのだろうか。

 

具体的には、前述の会社での話だ。

数字が伸びないことにしびれを切らした経営トップは、メインバンク系のVCから紹介された私をCFOとして迎え入れた以外は、営業責任者、製造責任者、さらに部門によっては現場の責任者クラスまでも、人材紹介会社から斡旋された人材をそのまま採用していた。

 

正直、この時の顔ぶれは履歴書だけ見るとすごい人達ばかりだった。

 

営業責任者は大手商社出身で、製造責任者や現場責任者クラスは誰もが知る一部上場企業で責任ある管理職を、それぞれしていた人たちばかりである。

当然、生え抜きの社員の倍ほどの給料を受け取っていた。

 

しかし、ある程度数字の整理が終わり、「異常値」の存在と原因を明らかにすることができても、優秀であるはずの製造責任者や現場責任者クラスから、期待する有効な対策が示されることはほとんどない。

営業責任者も同様で、数字が伸びないことに対して納得の行く説明や次月以降の定量的でわかりやすい行動方針が示されることがなく、形ばかりの無駄な役員会ばかりが繰り返されていった。

 

筆者は正直、製造や営業のスキルを売りに転職をする人が、どんな会社や業界でも通用する、CFOのような原理原則を持っているのか知らない。

しかしこの時に縁があった人たちが、そういった何かを持ち合わせていないことは明らかだった。

そしてそれがある時、バーストすることになる。

 

 

結局最後まで踏ん張ったのは、生え抜きの社員たちだった

それは、当社の大株主である証券大手の担当者がしびれを切らし、役員会に乗り込んできた時のことだ。

その時は、このままではもはや、手元資金の枯渇がカウントダウンという状態。

大株主として座視できず、役員会に参加して徹底的な改善策を聞かない限りは会社に帰らないという覚悟での参加であり、追求は深夜3時まで及んだ。

なおこの時はすでに、何が異常で何が正常なのかの見極めまでは、月次決算の数字でできる状態にまで、整理ができていた。

そしてその数字に基づき、ステークホルダーからの協力を取り付けるため、課題の改善を進めていこうと言う段階ではあったが、しかし現預金はもはや、非常に厳しい状態に陥っていた。

 

このような会議では、即効性があり、なおかつ大きなコストの削減に繋がる提案が要求される。

筆者は製造原価、製造労務費、製造経費、それに販管費のそれぞれのコストから把握できている課題をリストアップし、即効性と数字の大きさからプライオリティを整理して、各担当部長に対策を振る。

しかしここで返ってくる、大手商社や大手メーカーで責任者をしていたはずの人たちから返ってくる答えは、

「部下と一丸になって、今以上の努力をします」

「営業部の皆が寝ないで営業をすれば、きっと目標数字が達成できます」

という、全く無意味な回答ばかりであった。

それに対し、定量的なセンスで仕事を進める癖がある証券会社の投資担当者は当然、

「精神論は止めて下さい。睡眠は十分に取るべきであり、部下の方にもおかしなことを強要しないで下さい。」

と、ますます追い詰める。

 

精神論での回答は、全てとは言わないがほとんどの場合は、追い詰められた上での無意味な逃げ口上だ。

そして言葉を失った上司に代わり、高校卒業後、30年に渡り現場で汗を流し、今は課長をしている幹部が突然、口を挟んだ。

この日は、部長だけでなく、課長クラス以上もオブザーバーとして、部屋の隅にイスを並べ会議の様子を見学し、気がついたことがあれば発言をするよう株主から要請されていた。

 

「さっきCFOさんがいったことやけど、その程度の問題なら材料の仕入先でA社分をB社に振り替えてロットを大きくすれば、多分仕入れ単価で10円は下がるんちゃうかな。」

この提案に、株主の担当者も熱心に食いつく。

「その商品はどれくらいのロットを扱っているのですか?」

「俺、頭悪いし数字のことは余りわからんわ。でも、最低でも月間5万個は使ってるはずやで。」

「仕入先を変更することで、品質に与える影響はどうお考えですか?」

「同じに決まってるやん。卸と製造型番が違うだけで、同じメーカーの同じ商品やで(笑)」

 

このような会話こそが、数字を中心に経営を把握するCFOと、現場を熟知する製造責任者とのあるべき姿だ。

これを皮切りに、その後も課長クラスの現場責任者から

「そんなん、こうすればいいやん。」

「あ、多分それは〇〇が原因ですわ。これはお金もかかるので、解決を諦めたほうが賢明です。」

など、プライオリティの整理に非常に役立つ、建設的な会話が次々に生まれた。

その間、高給で採用された偉い人たちはほとんど会話に参加できない状態が続く。

そして後日、偉い人たちの何名かから自主的に辞表が出され、その後任に課長クラスの生え抜きが座ることになった。

 

この体験から筆者が言いたいことは、いうまでもなく人材紹介会社が機能していないということではない。

むしろ逆で、受け入れ側の企業経営者が安易に、有名企業の責任者クラスであれば自社のステージに関わりなく活躍をしてくれると盲信していることに問題があるのではないか、ということだ。

 

大企業で責任者クラスを務めていた人が、スタートアップの会社や、ターンアラウンド(事業再生)の段階にある会社で結果を出すことができるだろうか。

 

結局のところ、どれほど便利なサービスも企業経営者が使いこなせなければ、採用する側も採用される側も、お金と時間の無駄ということである。

そして何よりも、実は自社の生え抜き社員の価値を、経営者が本当に理解しているかどうか。

人材紹介という便利なサービスを使う前に、長年に渡り自社で働いてくれた社員の知見を引き出す努力にも、もっとコストを掛けてみても良いのではないだろうか。

参照

[1]矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2034

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