2019/03/22

織田信長の「リーダーシップは真似るな」「経済政策を真似よう」

その強烈なリーダーシップから、織田信長を手本にしようとするビジネスパーソンは少なくないと思います。社長の椅子を狙う野心家であれば、「信長の部下の使い方は参考になる」と考えるかもしれません。

しかし信長のリーダーシップを真似ることはリスキーです。彼の部下の使い方は、戦国時代であることを割り引いても昨今の「パワハラ絶対NG」の風潮に逆行します。

 

では、上を目指す人は信長を無視すべきなのかというと、そのようなことはありません。信長の経済政策は、現代でも色褪せていません。

「首相としての信長」ではなく「財務大臣と金融庁長官と経済産業大臣と日銀総裁としての信長」はどのビジネスパーソンにも十分参考になるはずです。

 

信長のリーダーシップを「真似てはならない理由」が重要

信長のリーダーシップを全否定しているわけではありません。信長の激烈な行動を「現代風に翻訳」できる人であれば参考になるところもあるでしょう。例えば、これまで順調に業績をあげてきたベンチャー企業の社長が、社運をかけた大型M&Aを仕掛ける場合、ときに非情にならなければなりません。過去のしがらみを断ち切る覚悟も必要になるでしょう。そのような人には、信長の言動は参考になるはずです。

 

しかし、歴史上の人物の偉業を翻訳することが苦手な人が、単純に信長のリーダーシップを真似ると、せっかくつかんだポストを失うことになりかねません。特に30代前半までの若い会社員がいきなり信長のように振る舞うと周囲から孤立してしまうでしょう。

これが、信長のリーダーシップは安易に真似ないほうがよいというアドバイスの真意です。

 

「信長のリーダーシップを真似てはいけない理由」はとても重要なので詳しく解説します。

 

パワハラの度が過ぎる信長

信長の部下への横暴ぶりをみてみましょう[1][2][3]。

 

信長に謁見(面会)した外国人宣教師が「信長は相手が誰であれ見下していた」という感想を持ったとされています。そして明確に「下」に位置する家臣(部下)たちには、横暴に接していました。

 

信長がある地方を訪れたとき、その土地の寺の僧侶が歓迎の意を示す「モチ」を差し入れました。信長はそれを食べるや「うまい」と喜びました。そして信長は家臣に「食べろ」と言って、モチを家畜の糞が転がる路上に放り投げたのです。

これは「俺が与えるものは、糞つきのモチでもありがたがれ」というメッセージです。信長は部下に、絶対服従以上の服従を求めたのです。

家臣たちは「信長のモチ」を我先と拾って食べたそうです。

 

また、信長は天下獲りの布石として、1576年に安土城(現在の滋賀県)を建てました。それまでの岐阜城(現在の岐阜県)では、当時の首都である京都まで遠かったからです。

信長が引っ越すのですから、家臣120人も引っ越さなければなりません。しかし家臣のなかにはこの大規模引っ越しに素直に従わない者もいました。家族だけは岐阜に置いておく者がいたのです。

このとき信長は、家臣たちの岐阜の家を焼き払い、強制的に引っ越しさせました。

 

現代のパワハラ監視社会で信長流を貫くことは無理

ビジネスパーソンが信長を真似て、周囲の人をすべて見下したり横暴な態度を貫いたりすることはとてもリスキーです。

現代はパワハラ監視社会に移行したといえるでしょう。パワハラを受けた者は我慢せず告発するようになりました。また、パワハラが明るみになると、パワハラの行為者はなんらかの形で制裁を受けます。

 

信長の力の源泉は、資金力と武力と戦略でした。この力を背景に、信長はパワハラを実行していました。

しかし現代のビジネスシーンでは、高い地位と上司の庇護(ひご)と優れた実績を有した者によるパワハラであっても、許容されることはありません。その一例が、2010年に名古屋高裁が判決を下したパワハラ訴訟です[4]。

 

A市役所のB部長の部下Cがうつ病を発症して自殺をしました。Cの妻が夫の自殺はB部長のパワハラのせいであること認定するよう求めて提訴しました。

名古屋高裁は、部下Cの自殺とB部長のパワハラには因果関係があると認定しました。

 

B部長は優秀な人で仕事熱心で、上司から頼られる存在でした。しかしその分、部下への要求が高く、指示の出し方が猛烈でした。朝礼で部下に大声で「馬鹿者」とののしったり「お前らは給料が多すぎる」と叱ったりしていました。

そしてB部長は部下をフォローすることはありませんでした。そのため多くの部下はB部長の顔色をうかがったり、やる気を失ったりしていました。

部下のなかには人事課に「このままでは職場から自殺者が出る」と直訴する人もいましたが、B部長は上層部の評価が高かったので注意されませんでした。

 

自殺したCはB部長の同期でしたが、B部長の部内の課長であったため、部下という立ち位置でした。C課長は直接B部長から叱責されたわけではありませんが、C課長の部下がB部長に苦しめられていました。Cはそのことがストレスとなりうつ病を発症しました。そして死後、CがB部長について「人望のないB、人格のないB、職員はヤル気をなくす」と書いたメモがみつかっています。

 

地方公務員労災補償基金は、Cのうつ病と自殺の原因は「公務外のこと」であり、B部長のパワハラが原因ではないとしました。

名古屋高裁は、「B部長のパワハラは直接C自身に向けられたものではないが、心理的負荷を与えている」として、Cの自殺は公務(仕事、つまりB部長のパワハラ)に起因していると認定したのです。

 

市役所の部長といえば、かなり高い地位です。またB部長は市役所の上層部に守られていました。それは公務員としての手腕が買われていたからです。B部長はこの力の源泉を背景にパワハラ行為を繰り返し、職場から自殺者を出してしまいました。

その結果、裁判沙汰になり、自分のパワハラが部下の自殺に関係していると公に認定されてしまったのです。

社会がパワハラを許容しなくなったのは、パワハラが被害者の健康を害し、命すら奪うことが明らかになったからです。

 

初めて部下を持った人は「似非信長」にならないようにしよう

信長はときにヒーローとして扱わることがありますが、若いビジネスパーソンが安易にそのカリスマ性に憧れてしまうと、手痛いしっぺ返しを受けてしまうかもしれません。

人生で初めて部下を持つと、威張りたい欲求に駆られるかもしれません。しかしその誘惑に打ち克って「反信長」を貫き、むしろ部下のために尽くしましょう。

例えば「人たらし」で知られる豊臣秀吉のほうが、初めてのリーダーにとってはよい見本になるかもしれません。

 

信長は、人格者との誉れが高い腹心・明智光秀に討たれました。そして信長から帝王学を仕込まれた秀吉も徳川家康も、信長の亡き後、織田家を尊重したわけではありません。

つまり未熟なビジネスパーソンがいきなり信長を「完コピ」してしまうと、つまずくことになりかねないのです。

 

信長の役職は「首相が日銀総裁を兼務したようなもの」

現代日本の行政のトップは首相です。そして財政と税制を管轄するのは財務大臣、金融業界を監督するのが金融庁長官、産業や流通を振興させるのが経済産業大臣、そしてマネーをコントロールするのが日本銀行総裁です。

民主国家では、それぞれの仕事にトップが居ることがポイントとなります。例えば日本銀行の金融政策は独立性が保たれています。それは洋の東西を問わず、得てして政府というものは中央銀行の金融政策を緩和させようと動き、その結果、一国の経済が機能不全に陥ることがあるからです。それで日本銀行法第3条は、日銀の独立性を定めているのです[5]。

 

ところが信長が最終的にたどり着いた役職は、首相兼財務大臣兼金融庁長官兼経済産業大臣兼日銀総裁でした。

信長の世は非民主的だったわけですが、ただ政治のトップであった信長が全行政を取り仕切ったことで、大胆な金融政策や産業振興策を短期間に次々打ち出すことができました。

信長のビジネスセンスは、現代のビジネスパーソンも持っておきたいところです。

 

物流コストを大幅に下げた「関所の撤廃」

信長の数ある経済政策のうち、関所の撤廃についてみていきましょう[6]。

 

流通コストを下げてビジネスを拡大させる

関所とは、国境に設置するゲートのようなものです。信長の時代の日本は、地域ごとに領主がいて、それぞれの地域が一国のように独立していました。それで領主は、主要道路の隣国との境に関所を設け、そこを通過しようとする者から通行料を取っていました。

そのためビジネスパーソン(商人)が全国でビジネスを展開しようとすれば、関所の数だけ通行料を支払わなければならず、流通コストが膨大な金額になってしまいます。これでは商人たちのビジネスモチベーションは高まりません。

 

そこで信長は、まずは自分の領地内の関所を廃止しました。これにより商人たちに「信長の領地でビジネスをすればコストを抑えられる」というモチベーションが生まれました。

また流通コストが下がれば商品価格が安くなるのは当時も同じで、つまり関所を廃止した地域では物が安く買えるようになりました。これが消費を刺激することになり、ビジネスがますます拡大していきました。

 

物流革命とビジネス拡大の関係は、現代の日本経済でも重要課題となっています。

 

アマゾン物流トラブルとドローン

国内の流通大手にしてEコマース(ネット通販など)の雄であるアマゾンは、日本に巨大な物流需要を生み出しました。ところが物流ニーズの急拡大に対応できないとして、まず佐川急便がアマゾン製品を取り扱わない決定をしました[7]。

そのため同じ宅配業者のヤマト運輸にアマゾンの荷物が集中したわけですが、仕事が増えたことを歓迎したのもつかの間、ヤマトも従業員の負担増に対応しきれず、2017年に取り扱う荷物量を意図的に減らすことになりました[8]。

 

このように、現代でも物流はビジネスのボトルネックになっています。

そこで「現代版 関所の撤廃」が始まったのです。例えばアマゾンのライバルである楽天は、ドローンを使った配送サービスを2019年度中に過疎地で始めます[9]。

例えば山のなかのキャンプ場でバーベキューをしたくなったとき、ドローンがバーベキューセット一式を「空輸」してくれるのです。

物流が空を使えば、「関所」は無に等しくなります。

 

国内最大級のEコマース企業が参考にした楽市楽座

信長の経済政策では、楽市楽座も注目すべきでしょう。楽市楽座政策が実施される前は、商人たちは土地の所有者に場所代を支払ってビジネスをさせてもらっていました。また、ビジネスをするには、組合に所属する必要がありました。

その規制をすべて撤廃したのが楽市楽座です[10]。

関所がなくなって流通コストが下がったうえに、楽市楽座によって開業コストや販売コストも下がったのです。

ここで思い出していただきたいのが、信長の部下への超パワハラです。あれだけ家臣を痛めつけていたのに、商人たちには「大甘」なのです。

 

全国の商人たちが信長の領地に集まり、大きなビジネスが信長の領地内で起きれば、信長は税率を上げずに多くの税金を徴収することができます。商人たちは信長に大儲けさせてもらっているので、喜んで税金を支払うでしょう。

信長はその財産を使って軍備を増強したり遠征費に充当したりしたのです。

 

ちなみに、アマゾンに並ぶEコマースの巨人である楽天の「楽」は、楽市楽座が由来になっています[11]。

 

まとめ~ビジネスモデルづくりの天才

信長のリーダーシップを真似しないほうがよい、と考えるのは、信長が物欲の人でもあるからです。信長は自身の財産を増やす一方で、自分に従わない大名や実績をあげない家臣を極端に冷遇したので反感を買いました。下の者たちの悪感情が、自分が出世したときの「地雷」になることは、戦国時代も現代も同じです。信長の代償は本能寺の変でした、つまり自分の命です。

 

百戦錬磨のビジネスパーソンや、艱難辛苦を乗り越えてその地位を築き上げた社長であれば、信長のリーダーシップは十分参考になるでしょう。

しかし、若手や中堅のビジネスパーソンは、安易に信長流リーダーシップに手をつけないほうがいいのです。

真似すべきは、信長のビジネスモデルのつくり方や、規制を撤廃する勇気や、ビジネス環境を整備する行動力です。

 

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参照

[1]織田信長は「部下に嫌われる鬼上司」の典型だ
https://toyokeizai.net/articles/-/156244
[2]「虐殺者」織田信長は、ここまで残酷だった
https://toyokeizai.net/articles/-/159191
[3]信長はなぜ安土城を築いたのか
https://ironna.jp/theme/32
[4]「パワハラ基本情報」【第46回】 「上司の部下に対する指導が典型的なパワハラに相当するものであり、その程度も高いものであったとされた事案」
https://no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/archives/48
[5]日本銀行の独立性とは何ですか?
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/outline/a03.htm/
[6]「信長の政略」(谷口克広)
https://books.google.co.jp/books?id=x05WBAAAQBAJ&pg=PT171&lpg=PT171&dq=%E4%BF%A1%E9%95%B7%E3%80%80%E9%96%A2%E6%89%80&source=bl&ots=iL2-j1Nxoi&sig=ACfU3U3yCcZGS1vUYTEUBfk9hQ7PyVI8Tg&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwiXysHl6IHhAhWRL6YKHT9cATk4ChDoATAIegQIARAB#v=onepage&q=%E4%BF%A1%E9%95%B7%E3%80%80%E9%96%A2%E6%89%80&f=false
[7]宅配が崩壊した本当の理由
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3109853029052018000000?page=2
[8]アマゾン効果、宅配便勢力図に異変 日本郵便が急伸
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30387350R10C18A5EA2000/
[9]楽天、国内初のドローン配送 19年度中に過疎地で
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40460160V20C19A1000000/
[10]楽市楽座
http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005310069_00000&p=box
[11]楽天の社名の由来を教えてください
https://corp.rakuten.co.jp/investors/faqs/