2019/04/01

誰もがリーダーシップを身につけなければならない時代の到来~『ハーバードビジネスレビュー リーダーシップの教科書』(書評・解説)~

仕事に慣れ、部下ができるようになると、周囲から「リーダーシップを発揮してほしい」「リーダーとしてプロジェクトを遂行してほしい」と言われる機会が増えてきます。そんなとき、「私にリーダーシップはない」「自分はリーダーの器ではない」としり込みするのはNG。今日ではリーダーシップというのは、一握りのカリスマだけが備えている資質ではなく、誰もが習得でき、実践と経験の中で磨いていくものだと考えられているからです。

 

あなたが習得すべきリーダーシップとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。またそれはどのようにして習得できるものなのでしょうか。それを知る第1歩が『ハーバードビジネスレビュー リーダーシップの教科書』です。

 

経営者に求められるリーダーシップとは

企業に欠かせないリーダーシップとマネジメントの役割は、しばしば混同されていますが、両者は異なるものです。

マネジメントという概念は、20世紀に入って会社業務が複雑化してから登場しました。組織を運営し、会社が直面する複雑な状況に対応するために、マネジメントの手法や手順が生まれたのです。本書ではマネジメントとは「複雑な状況にうまく対応すること」と定義されます。

 

それに対してリーダーシップがビジネスにおいて注目されるようになったのは、比較的新しいことです。激動する世界の中で企業が生き延びるためには、変化に適応し、企業自身が絶えず変革を遂げていかなければなりません。リーダーシップの役割はその点にあります。近年リーダーシップの重要性が高まっているのは、ビジネスの世界で競争と変化が激しさを増しているからです。本書ではリーダーシップは「変化に対処すること」と定義されます。

 

では、企業において経営者はどのようにリーダーシップを発揮しているのでしょうか。

 

リーダーはビジョンを描き、現実的な筋道を示す

企業が変化に対処しようとするとき、リーダーは今後企業がどのような方向性に向かって変革を起こしていくのか、ビジョンを描かなくてはなりません。そのビジョンとは、弱小企業がいきなり「業界ナンバーワンを目指す」というようなものではなく、客や株主、社員に利益になるような方向性であり、そこから地に足の着いた競争戦略を導くことが経営者に求められるリーダーシップなのです。

 

〈事例〉新たな企業文化の醸成というビジョンを軸に、新市場の開拓や新商品・サービスの開発に成功したアメリカン・エクスプレスのルー・ガースナー

79年アメリカン・エクスプレスのトラベル・リレーテッド・サービス(TRS)の社長に就任したルー・ガースナーは、起業家精神あふれる企業文化を醸成し、そのような文化の中で成功を実現できる人材を育成する、という方向性を打ち出しました。

 

起業家精神を発揮しやすくするために、無用なお役所仕事をなくすと同時に、人材採用基準を引き上げて、有望な若手社員向けの特別研修プログラムを創設し、そこで経験を積ませるだけでなく、経営トップと交流する機会を与えました。また、リスクを奨励するために「グレートパフォーマーズ」という制度を立ち上げ、TRSのコアビジョンである「真に比類なき顧客サービス」を実現した者には報奨を与えました。こうしたインセンティブの効果はすぐに表れ、新市場の開拓や新商品・新サービスの開発に結び付きました。

 

リーダーはビジョンを達成するために、みんなの心をまとめ正しい方向へ導く

マネジメントは普通の人々が普通のやり方でルーチンを処理できるようにするためのものです。しかし、リーダーシップの役割である壮大なビジョンを実現するためには、コミュニケーションを通じて部下の心をまとめあげ、さらに動機付け、触発してエネルギーをかきたてる必要があります。

 

〈事例〉誰もがリーダーとして行動することで、市場の変化に対応したP&G社

80年代に入ると、紙オムツ市場は激しい競争が起こり、70年代には75%の市場シェアを維持していたP&G社も、84年には52%までシェアを落としていました。リチャード・ニコローシが紙製品事業部部長に就任したのはそんな時期した。

 

ニコローシはそれまで同社が重視していた低コスト生産に注力するのを止め、より創造的で市場主導型の部門になるになる必要性を訴えました。紙オムツ、ティッシュペーパー、紙タオルなどのカテゴリーチームを立ち上げ、それぞれのチームに権限と責任を与えると同時に、みずからは広告代理店との会議など、特定の活動を選んで細部にまで関与するようになりました。また、新製品開発プロジェクトのメンバーと話す機会を増やし、紙オムツのマーケティングマネジャーには、自分に直接報告するように指示しました。

 

組織を再編し、さらに新しいビジョンをさらに多くの人に知ってもらうために、紙製品事業部メンバー、営業マネジャーや工場長らを加えた総勢数千人を一堂に集め、「私たち一人ひとりがリーダー」という組織の新ビジョンを説明するイベントを企画しました。このイベントはビデオに録画され、すべての営業所と工場に配布されて組織末端まで共有されました。

 

こうした活動によって社員全体がビジョンの実現に向けて努力を傾けるようになった結果、「ウルトラ・パンパース」や一晩中つけていても漏れない「ラブス・デラックス」などのイノベーションがいくつも生まれ、パンパースブランドのシェアを大きく押し上げました。

 

現代の企業は市場や技術の変化に適応していかなければなりません。そのためには企業としてのビジョンを持ち、それを戦略に落とし込み、さらに社員の心をまとめ、誰もがリーダーシップを発揮できるようにしていく必要があります。それが経営者のリーダーシップの役割なのです。

 

リーダーは何をなすべきか

企業が変化に対応し、生き残るためには、従来のリーダーシップモデル、すなわちカリスマ性のあるリーダーが解決策を示し、先頭に立って指揮するというモデルでは対応できません。全員が一体となって問題解決のために学びあい、企業内に散在する知を結集させていかなければならないのです。そのためにリーダーは何をすればよいのでしょうか。

 

社員に問題を発見させ、みずから解決させる

従来型の企業では、部下はリーダーの指示通りに行動する方が楽だと考え、リーダーも部下を機械のように扱うことに慣れています。しかし、ボトムアップの組織作りのためには、社員自身に問題を発見させ、それを解決させる必要があります。リーダーは管理ではなく支援することを学ばなければなりません。

 

〈事例〉社員とのコミュニケーションを徹底したスカンジナビア航空ヤン・カールソン

1981年から1994年までスカンジナビア航空のCEOを務めたヤン・カールソンが打ち出したビジョンは、「出張で頻繁に飛行機を使うビジネス旅行客をターゲットに、世界最高の航空会社にする」というものでした。それを実現するために、カールソンは、社員みずからが問題を発見し、解決の責任を負うことを奨励しました。

 

最初の2年間、自分の時間の半分を社員とのコミュニケーションに費やしました。会議やワークショップ、ブレインストーミング、研修、ニュースレターなどを通じて、自分の考えを伝えるだけでなく、社員の意見に耳を傾けました。一方、役員食堂や何千ページにもおよぶマニュアルなど、役に立たないものを廃止していきました。

 

変化を生み出す

新たな脅威に直面したとき、これまでと同じように対応していては脅威に立ち向かうことはできません。新たな脅威には新たな方法、すなわち適応への挑戦が必要になってくるのです。リーダーは変化を生み出さなければなりません。

 

〈事例〉劣悪な航空会社から世界に親しまれる航空会社に生まれ変わったブリティッシュ・エアウェイズ

1980年代、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は、顧客サービスが劣悪な航空会社であるというレッテルを貼られていました。CEOのコリン・マーシャルは変革の必要性を認識し、変革を実現するために、社内のあらゆるところに変革を起こさなければならないと考えました。しかし当時、多くの社員は職能別のサイロに閉じこもり、顧客よりも上司を喜ばせることに価値観を置いていたのです。

 

マーシャルは顧客の不満がどれほどの脅威をもたらすか、人々に納得させました。その上で、顧客に献身的なサービスを提供し、信頼に基づいて行動し、互いに尊重しあい、部門の枠を超えたチームワークを求めました。

 

信頼の創造を第一義に掲げ、客室乗務員とミーティングしたり、予約センターや荷物取扱所、空港の顧客ラウンジを訪れて、社内外の意見や不満に耳を傾けました。また、組織内の不協和音を適応への手がかりとみなし、その奥底に潜むものを見極めていきました。それと同時に経営陣自身が、適応への挑戦を身をもって実践しているかどうかを確認しました。以上の3つを軸にBAの変革を成し遂げたのです。

 

組織には上司やCEOよりも専門知識を持った社員がいます。そうした社員の持つリーダー的視点を活用し、ボトムアップのリーダーシップを育てていくことが必要です。同時にリーダーは状況の変化を見極め、それに適応するために組織の変革をしていかなければなりません。組織の変革は同時にメンバー全員の変革でもあります。ビジョンを打ち出し、メンバーとのコミュニケーションを深めることがカギとなります。

 

自分らしいリーダーシップを身につける

「ビジネスであれ、政治であれ、ボランティアであれ、誰もがリーダーの素質を持っています。問題は、おのれをよく知り、リーダーシップを発揮することで周りの人たちの役に立てる場所を見つけられるかどうかです」(ヤング・アンド・ルビカム会長・CEOアン・ファッジ p.215)

 

ビル・ゲイツについて書かれたハウツー本を実践しても、リーダーシップは身につきません。リーダーシップはその人の人格の一部でなければならないからです。では、自分らしいリーダーシップをどうやって見つけることができるのでしょうか。

 

自分らしさを貫くリーダーになるには

自分らしさを貫くリーダーシップへの第一歩は、自分の半生について理解 することです。自分の本質は、勇気をもってみずからの過去をのぞき込み、失敗や挫折に向き合うことで明らかになります。

 

〈事例〉自己否認を乗り越え、自分を変えることに挑戦したチャールズ・シュワブ元CEOデイビッド・ポトラック

デイビッド・ポトラックはチャールズ・シュワブのマーケティング部長時代に、2度目の離婚を経験しました。「自分はパートナーの選び方に問題があるに違いない」と考えて心理カウンセラーを訪れた彼は、そこで「離婚の原因はパートナー選びではなく、あなたの夫としての行動です」と思いもよらないことを言われてしまいます。

 

彼は自分の過去を振り返りました。自分がワーカホリックであったこと、また、同時に長時間労働と過度の成果主義が、職場の人々からも批判的に受け止められていたことを思い返します。上司からそのことを指摘されても、自分の実績を見れば文句はないだろう、と否認してきたのです。

 

自己認識を妨げる最大のハードルが否認であることに気づいたポトラックは、自分を変えようと本気で努力しました。「3回も心臓発作に襲われて、やっと禁煙と減量に取り組んだ男のようでした」とポトラックは語ります。「私の人生には成功体験もあるので、これらが自尊心を支えてくれますから、批判を無視することなく堂々と受け止めることができます。やっと自分の欠点や失敗を許せるようになって、自分を強く責めることがなくなりました」

 

完全なリーダーはいない

今日の世界は変化が激しく、しかも非常に複雑なために、1人のリーダーが先頭に立ってすべてを切り盛りできる状況ではありません。今日求められるリーダーシップは、自分の足りないところを知り、周囲の人々の協力を仰ぐ分散型リーダーシップです。

 

インテルの会長アンディ・グローブは、状況認識に優れたリーダーであり、サウスウェスト航空の元CEOハーブ・ケレハーは人間関係をつくるのが巧みでした。スティーブ・ジョブズは優れたビジョンを打ち出すのが得意、イーベイのCEOメグ・ホイットマンは、さまざまな課題を創意工夫によってクリアしました。このように、リーダーとして必要とされる4つの能力「状況認識」「人間関係の構築」「ビジョンの策定」「創意工夫」を1人の人間がすべて備えている必要はありません。リーダーは自分の能力を知り、自分に欠けているものを補ってくれる仲間を探すべきなのです。

 

まとめ

時代の変化に適応し、組織や周囲を変革するリーダーシップの能力が、これまで以上に強く求められています。

新しい時代のリーダーシップとは、自分の長所・短所を踏まえた、自分らしいものでなくてはなりません。足りないところを補ってくれる仲間と協力し合うリーダーシップです。

企業やチームが変化に対処して変革を起こせるよう、リーダーはビジョンを持ち、それを実践へと落とし込んでいかなければなりません。変革をともに担えるよう、部下の能力を引き出しつつ育成するリーダーシップが求められています。