2019/06/07

管理をしない「ホラクラシー経営」はルールに満ちている

従来の組織で常識となっているヒエラルキー構造を覆す「ティール組織」。その認知度向上に伴い、具体的な形態の一つであるホラクラシー経営も注目浴びています。ただし、「管理職がいない」「自由な組織」といった表面的な内容だけが一人歩きしている感も否めません。ホラクラシー経営の本質は管理しないことではなく、むしろ綿密なルール作りにあります。また、その性質上、すべての企業においてフィットすべきでない点も押さえておく必要があるでしょう。

 

ホラクラシー経営とは

ホラクラシー経営とは、組織に所属長やマネージャーなど上司にあたるポジションを設けず、すべての従業員がフラットな関係となる構造を採用した経営手法です。アメリカの起業家ブライアン・J・ロバートソンが2007年に提唱しました。近年話題となっている「ティール組織」の具体的形態の1つとして注目を集めています。

 

ホラクラシー型組織は人ではなくロールとサークルで構成される

ホラクラシー経営では、原則として社長や課長などといった役員・管理職が存在しません。意思決定を行うのは、ホラクラシー型組織を構成するロール(役割)とサークル(チーム)です。

 

ホラクラシー経営の構成要素となるロール

通常の組織では、人事部の係員より係長、係長より課長、課長より部長と、より高いポジションの人間に広範囲にわたる決定権が集約されます。いわば意思決定が属人的になっている構造です。

 

一方、ホラクラシー経営では、権限は管理職ではなく細分化されたロールに与えられます。[1]最初に事業に必要なロールが設定され、その役割と権限が定義されます。そして、ロールに割り当てられた人がその領域で絶対的な意思決定権を持つのです。たとえば、「Web問い合わせ」というロールが設置されたとします。「Web問い合わせ」に割り当てられた人は、定義された役割において最大の意思決定者であり、責任者であり、プレイヤーとなるのです。上長となるポジションは設置されず、また誰であっても、そのロールに割り当てられた人の業務領域を無断で侵すことはできません。結果、従来のヒエラルキー構造のように権限が一カ所に集中することなく、組織全体に分散されることになります。

 

ロールを包括するサークル

サークルは、ロールの集合体となるさらに大きなロールです。たとえば、Webを通じた売上の増加という目的が定義された「Webマーケティング」というロールが設置されたとします。しかし、これでは領域が大きすぎるため、さらに「コンテンツ作成」「アクセス解析」「Web問い合わせ」といった細分化されたロールが設置されます。その場合、「Webマーケティング」はそれらを包括するサークルとして扱われます。イメージとしては、サークルという大きな風船の中に、そのサークルを構成するのに必要な小さな風船(ロール)が複数入っている形です。会社組織全体も1つのサークルとなります。

 

ホラクラシー経営の本質はルールにある

従来の組織構造とホラクラシー経営の違いは、「人が管理するか」「ルールが管理するか」この違いにあります。ホラクラシー型組織には統括的な責任者が存在しないため、行動規範となるルールや価値観を確立させないと上手く機能しないのです。

 

ホラクラシー経営には憲法が存在する

ホラクラシー経営では、組織のガイドラインとなる憲法が存在します。憲法にはロールやサークルの結成・解散などのルールや、サークル・ロール間の役割の線引きの仕方、会議の進め方などが記載されます。[2]柔軟性を維持するため、細かいタスクの遂行方法などは記載されることはないものの、憲法は組織における基本的な行動規範となるのです。

 

サークルには固定的なロールがある

ロールは状況の変化や組織の発展などにより発生と消滅を繰り返します。ただし、常に必要なロールが4つあります。この4つは、ホラクラシー経営を導入する際、最初に決めるロールでもあります。

 

・リードリンク:サークル内でのロールの割り当てや優先順位を決定する
・ファシリテーター:ミーティングにおける舵取り役
・セクレタリー:サークルにおける各種調整・記録役
・レプリンク:サークル内外の調整役

 

リードリンクについては、従来でいう人事権のような役割が与えられているため管理職のような印象を受けるかもしれません。とはいえ、人事評価を行うことはなく、あくまでロールを割り当て全体の方向性を決めることが役割となります。

 

ロールには決めなければならない3つの項目がある

新たなロールを設置する際には、「目的」「領域」「債務」の3つを決める必要があります。[3]

 

目的:そのロールが達成するべき成果
領域:そのロールがコントロールできるリソース
債務:そのロールが期待される行動

 

各ロールの存在意義が明確で絶対的な権限を持つのは、これらの項目が明確だからです。反対にロールの定義があいまいだとホラクラシー経営は立ち行かなくなります。

 

各ロールは情報をオープンにする

従来の組織構造であれば、意思決定権を持つ管理職さえ情報を把握して入れば事業を遂行するこが可能です。しかし、全員が意思決定を行うホラクラシー経営において、最善の選択や有意義な議論を行うためには情報は独占されていてはいけません。そのため、経営情報は細部まで公開されており、各ロールに割り当てられているメンバーも互いに状況を共有する必要があります。円滑な情報共有を図るには、グループウェアなどの業務ツールを導入する必要もあるでしょう。

 

ホラクラシー経営のメリット

ホラクラシー経営は、トレンドと価値観がめまぐるしく変わる現代において、極めて大きなポテンシャルを秘めています。

 

順応性の高い組織を構築できる

ホラクラシー経営最大のメリットはスピード感のある意思決定とアクションにあります。それぞれの役割の範囲内であれば、自身で決めたことをそのまま行動に移せるため、極めて短いスパンで実行と効果分析と改善を繰り返すことが可能です。その結果、めまぐるしく変化する社会とトレンドに対して極めて高い順応性を発揮することが期待できます。

 

誰が何をすべきか明確になる

ホラクラシー経営では、個人の役割が明確に細分化されています。それぞれの守備範囲がはっきりしており、また外部の人間にとっては不可侵領域となるため、余計に気を回す必要がなくなります。誰に相談すればよいかはっきりする点もメリットです。

 

従業員の満足度向上を期待できる

適切なロールの割り当てを行うことで、従業員の仕事に対する満足度をも高めることが可能です。上司の指示ではなく自主的な判断のもと業務を遂行することができ、また、役割がはっきりしているため必然的に社内で頼られる存在となり、存在意義も明確に確立できるからです。これらは、心理学者デシが掲げる内発的動機付けに必要な3つの要素「自律性」「有能感」にもつながります。[4]

 

ホラクラシー経営の問題点

意思決定権が組織全体に分散されるがゆえに、ホラクラシー経営には懸念すべき問題点もあります。

 

採用に時間がかかる

指揮系統権のある人材が存在しないため、メンバーが自主的に動かないと組織が活発化しません。したがって、組織のビジョンやワークスタイルに共感し、行動に移せる人材を選定することが求められます。採用活動では時間をかけてフィットする人材かどうかを見極める必要があるでしょう。したがって短期間での大量採用ができなくなり、規模の拡大という面でスピードを出すことも難しくなります。

 

ホラクラシー経営をフィットさせるのに時間を要する

ホラクラシー経営そのものを組織にフィットさせるのにも時間を要するでしょう。創始者であるブライアン・J・ロバートソンが基本となるホラクラシー憲法を公開しているものの、そのままどの企業にも適用できるわけではありません。ロールを決めるミーティングの進め方、評価制度や給与基準の策定など、絶対的な権限を持つ人物がいない分、細かなルール設定が肝となります。自社に最適化されたシステムを構築するまでにはトライ&エラーが続くことになるでしょう。

 

ホラクラシー経営に向く組織・向かない組織

ホラクラシー経営は、全体の統制力を重視するビジネスや組織にはフィットしません。たとえば、警察や警備会社などはトップダウンの指示系統がスムーズに機能するかどうかが重要となり、構成員の個性や発想を尊重する異議はそれほど大きくありません。また、長期的なスパンで事業を見通すタイプのビジネスにも向かないでしょう。たとえば、1つの事業に何十億円もの設備投資を行うような事業の戦略は一貫的かつ不変で、短期的な変化は必ずしも必要ではないからです。[5]

 

一方、市場の変化が早く、取るべき施策に複数のパターンが存在するビジネスでは、ホラクラシー経営は効果を発揮する可能性が高くなります。BtoCのメーカーや小売業、あるいは自社サービスを持つIT系ベンチャーにホラクラシー経営を取り入れるケースが多いのも、多様な発想力と迅速かつ柔軟な多様性がビジネスの成否を分けるためです。

 

ホラクラシー経営の導入実例

実際にほらクシー経営を導入している国内外の企業を紹介します。

 

ザッポス

ザッポスは、靴をメインの商品としたECサイトを運営するロサンゼルスの会社です。従業員数は約1,500名とホラクラシー経営を実践する企業の中では最大規模となります。2014年にホラクラシー経営を導入後、社長さえいない完全なフラット組織となりました(社長であったトニー・シェイはリードリンクを担当)。この大胆な改革により、社内の風通しがよくなり合意形成にかかる時間が短縮されました。その一方で、導入時に合意できない従業員(全体の6%)を手当付きで解雇しています。

 

Airbnb

Airbnbは、宿泊施設や民宿を紹介するWebサイトを運営するサンフランシスコの会社です。日本法人も置かれています。Airbnbの特徴は、ホラクラシー経営を実践すると同時に、エンジニアリングマネージャーと呼ばれるポジションも置いている点です。とはいえ、従来のマネージャーのような命令権はありません。知識や技術面でのサポートをするとともに、従業員がプロジェクトの全体像を従業員が把握できるようにする橋渡し役を担っています。

 

ソニックガーデン

ソニックガーデンは、システムの受託開発を手がけるプログラマー集団です。東京に本社を置いています。ソニックガーデンにおいても最低限必要な役員以外に管理職は存在せず、全員がプログラマーとして同じ形態で業務を行っています。給与は一定の年数になれば完全に一律となっています。自社にマッチする従業員だけを選ぶため、最長で1年もの採用期間を設けています。

 

ダイヤモンドメディア

ダイヤモンドメディアは、不動産業界向けのWebツールやサービスを開発・提供している東京の会社です。実質上の役員は存在せず、法律上必要な役員については選挙で決めるなどユニークな取り組みを行っています。給与は労働市場における市場価値や社内での相場、定量的な成果などを勘案して決定されます。

 

アトラエ

求人メディアやビジネスマッチングアプリなどHR関係のサービスを展開している東京の会社です。取締役などの役職はなく、プロジェクトが組織の構成要素となっています。プロジェクトリーダーは存在するものの、上位の役職ではなくあくまで役割に過ぎません。リーダーよりメンバーの方が給与やキャリアが高いこともあります。同僚が個人の評価を行う360度評価制度を取り入れています。

 

ホラクラシー経営の本質を見極めることが導入の成否を決める

個々の自主性を尊重しながらも、組織全体が一貫して機能するため、ホラクラシー経営の導入は憲法をはじめとしたルールの策定が重要となります。また、その性質上小規模組織の方が導入しやすく。実際、日本では小規模のIT企業を中心に広がりを見せています。一方で、ザッポスのような大企業でも一定の成功を収めている事例もあります。大切なのは、ホラクラシー経営のメリット・デメリットを把握し本質をつかむことでしょう。そのプロセスを経ることで初めて導入の是非が検討可能となり、また導入後のメリットを最大化できるのです。

 

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参照

[1]「ホラクラシーの光と影」イーサン・バーンスタイン著 位置No.23
[2]「ホラクラシーの光と影」イーサン・バーンスタイン著 位置No.162
[3]Holacracy Constitution
https://www.holacracy.org/constitution#art1
[4]国際経済労働研究所「有能性と自律性(あるいは自己決定性)は,内発的動機づけを促進するか?」
http://www.iewri.or.jp/cms/archives/2008/10/post-11.html
[5]「ホラクラシーの光と影」イーサン・バーンスタイン著 位置No.400