2019/09/05

ドラッカーが伝えたかった「インテグリティ(真摯さ)」の意味とは

「本が人を変えるのではない。パラグラフが、いやセンテンスですら人を変える」

 

米国の神学者、ジョン・パイパーの言葉です。[1]

 

たしかに人は、ときに本の中にある「たった1語」に魅了されます。

 

P.F.ドラッカーの「インテグリティ(真摯さ)」もその1つです。

 

正直、なんとなく理解できるようでしっくりこないこのフレーズ。

 

今回はドラッカーが重視する「インテグリティ(真摯さ)」の意味を、事例とともに紹介します。

 

 

ドラッカーが定義する理想の上司に必要な5つの資質

「インテグリティ(真摯さ)」とは、いったいどういう意味なのでしょう。

 

突然天から降ってくる雨粒と違って、言葉は人の意志なくこの世に現われることはありません。

 

言葉には必ず「書き手」がいて、それにはその人の「思い」や「解釈」があるはずです。

 

「真摯さ」の一般的な意味である、「まじめさ」や「ひたむきさ」は、心もち次第でいつでも誰でも得られる努力姿勢といえます。

 

しかし、この「インテグリティ(真摯さ)」は後天的には身に付かないものなのだとドラッカーはいいます。[2]

 

では、翻訳者の上田惇生氏はどのような意図をもって、「真摯」という言葉を和訳に選んだのでしょうか。

 

その心は定かではありません。

 

しかし、上田氏が「インテグリティ」を単に「正直さ」や「誠実さ」と訳さなかったことは、「真摯さ」の重要性を読者に示すきっかけとなりました。

 

原文ではどのような意味なのでしょうか。

 

「インテグリティ(integrity)」の語源は「integer(完全性)」で、直訳すると「高潔、誠実、清廉」という意味です。[3]

 

しかし、ドラッカーは「高潔で清廉な人」が組織にとって良いといいたかったわけではないでしょう。

 

前提として、ドラッカーは「インテグリティの定義は難しい」といっています。[4]

 

ですが著書の中で逆説的に、インテグリティの欠如した人の特徴として、以下の5つをあげています。[4]

 

  1. 強みよりも弱みに目を向ける者
  2. 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者
  3. 真摯さよりも、頭のよさを重視する者
  4. 部下に脅威を感じる者
  5. 自らの仕事に高い基準を設定しない者

 

これらの条件を裏命題とすると、ドラッカーの理想とする上司像が浮かびあがってきます。

 

つまり、インテグリティをもった人とは、「陰日向のない、一貫した信念のある人」といえます。

 

また、「誠実で、常に言動が一致し、向上心のある人」とも解釈できるでしょう。

 

 

上司の「インテグリティ(真摯さ)」が組織に与える影響力

「インテグリティ(真摯さ)の欠如した者は、人間という最も重要な資源を破壊し、組織の精神を損ない、業績を低下させる」とドラッカーは断言しています。[5]

 

では、上司のインテグリティ(真摯さ)は、具体的に組織にどのような影響を与えるのでしょうか。

 

筆者が職場で実際にあった事例をもとにみていきましょう。

 

昔、仕事でお世話になっていた、有能な先輩が2人いました。

 

どちらの先輩も高度な専門性をもち博覧強記で処理能力も高く、ときには休日返上で労を惜しまず会社に貢献していました。

 

また、両先輩とも後輩の面倒見が良く、公私にわたって相談にのってくれる、熱心な人たちでした。

 

しかし、なぜか1人の先輩は若い人から嫌忌され、いつも遠ざけられるのです。

 

会社の先輩としては後輩から頼られてはいるけれども、なぜか心からの親しみをもたれない。

 

筆者は、この先輩2人の違いがどこにあるのかを考えてみました。

 

そして気づいたことは、後輩に真に信頼される先輩は、分け隔てなくフラットな立場で評価や価値判断をしているという点でした。

 

たしかに、どちらの先輩も仕事に対していつも熱意をもって取り組んでいました。

 

しかし、後輩からとりわけ慕われる先輩はそれだけではなく、自分自身に対しても客観的な見かたをしていたのです。

 

たとえば、真摯さ(インテグリティ)のある先輩は、

 

「自分も完璧ではなく、ミスをしていることがあるかもしれない」

 

という謙虚な気持ちを常にもっていました。

 

そして実際に間違いがあったときは、親子ほど年の離れた後輩にも誠意をもって頭を下げ、謝罪をしていました。

 

後輩から間違いを指摘されるようなネガティブな局面でも、

 

「早くわかって助かった。頼りにしているよ」

 

と温かい言葉をかけてくれるのです。

 

また、インテグリティ(真摯さ)のある先輩は、自分の知らないことを後輩が知っていたときに嫌な顔1つせず、

 

「初めて知った。教えてくれてありがとう」

 

と、誰をも等しく評価していました。

 

そのおかげで、後輩は先輩に萎縮せずに自由に意見やアイディアを発言することができたのです。

 

もし、

 

「そんなことは自分も知っている」

 

とか、自らのミスを棚に上げて事務的に、

 

「気がついた人が間違いを訂正して、報告してくれればいい」

 

という態度であったのなら、若い人たちはついこなかったでしょう。

 

先輩の裏表のない誠実な姿をみて、

 

「もっと期待に応えたい」

 

と後輩たちは士気をどんどん上げていきました。

 

このように、「インテグリティ(真摯さ)」には真理を超えた、人の心を動かす力があるのかもしれません。

 

 

「真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる」

と、ドラッカーはいいます。[4]

 

たしかに日本の先輩後輩文化や恥の文化は日本の美徳といえるでしょう。

 

しかし、日本社会のいき過ぎる「年功序列」や「減点主義」は、ときに組織の成長を低減させることがあります。

 

良いものを良い、悪いものを悪いと正直に判断する勇気がときに必要なのかもしれせん。

 

そして、失敗してもまた挑戦することに寛容である企業風士が、より良い組織づくりのきっかけとなるのです。

 

 

国際化がもたらす日本企業にとっての「インテグリティ(真摯さ)」の意味

「正直は最良の策(Honesty is the best policy.)」という西洋の諺どおり、国際感覚として「インテグリティ(真摯さ)」は重要な品格の1つです。[3]

 

これは異文化の観点からも明らかです。

 

米国の経営犯罪は、粉飾決済のような個人の利益目的が多く、単発的な個人犯罪が主である特徴があります。

 

したがって、米国企業では自主的に自分でコンプライアンス(倫理規範や行動規則)を定め、それを社内で遵守することが徹底されています。

 

一方、日本では「和をもって貴ぶ」といわれるように、ときに「法律」よりも「会社の暗黙の掟」が勝ることがあります。

 

かつてはそれが、企業の不祥事として表立つことがありました。

 

しかし近年では、日本の労働環境の変化による内部告発の増加からも分かるように、社会正義が勝るケースが多くなってきています。

 

日本のコンプライアンスの定義は変化し、最近は企業主体の体制から、構成員個々が主体となりました。

 

コンプライアンスを「企業倫理」から「リスク管理」という意味に捉える傾向になってきたのです。

 

この変化は日本企業に、より良い企業倫理を働き手1人1人に浸透させる糸口となっています。

 

企業倫理の根底にある「インテグリティ(真摯さ)」は、これからも企業価値のある国際的な資質であるでしょう。

 

 

まとめ

「イノベーションの第1歩は陳腐化したものを計画的に捨てることである」

 

とドラッカーはいいます。[6]

 

陰日向のない一貫した誠実性もって邁進すること。

 

それがより良い未来を開く可能性となります。

 

そのためにも、「インテグリティ(真摯さ)」をもつ人材が組織の中で真っ当な評価を受ける仕組みづくりが重要です。

 

そしてそれが、より良い社会をつくる基盤になることを、ドラッカーは今もわたしたちに伝え続けています。

 

 

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参照

[1]「A Godward Life: Savoring the Supremacy of God in All of Life」John Piperより”Books don’t’ change people; paragraphs do, sometimes even sentences.”の和訳
[2]「現代の経営(上)」P.F.ドラッカー
https://kumagera-consultant.blogspot.com/2015/11/blog-post.html
[3]「goo辞書英和・和英辞書」より
[4] 「マネジメント【エッセンシャル版】: 基本と原則」P.F.ドラッカー P26
[5] 「マネジメント【エッセンシャル版】: 基本と原則」P.F.ドラッカー P148
[6] 「マネジメント【エッセンシャル版】: 基本と原則」P.F.ドラッカー P269