2019/09/30

社員に「経営者目線を持て」という松下幸之助の発言は、本当に「ブラック」なものなのだろうか。

言わずと知れた、日本を代表する経営者である松下幸之助。

敗戦後の日本を高度成長に導いた、近代日本経済にとってもっとも大きな巨人の一人だ。

Made in Japan=高品質というブランドイメージを確立するなど、氏が成し遂げた功績はパナソニックにとどまらず、広く日本の産業界に今も残り続けている。

 

にも関わらず今日、華やかなマネジメント理論ばかりが耳に入り、氏の功績を取り上げるメディアや書籍は余り多くない。

そんな中で、経営者だけではなく管理職、従業員、派遣社員、アルバイトの立ち位置にある人にも、ご紹介したい言葉がある。
それは、昭和49年に幸之助が著した著作、「社員稼業」という本の、前書きの一節だ。

一言でいうなら、会社に勤める社員のみなさんが、自分は単なる会社の一社員ではなく、社員という独立した事業を営む主人公であり経営者である、自分は社員稼業の店主である、というように考えてみてはどうか、ということである。
(中略)
自分が社員稼業の店主であるとなれば、上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである。そうすると、そのお客さんに対し、サービスも必要であろう。

この一節を見て、どのような感想を持つだろう。

率直に言って、経営側の都合がいいように従業員を使いたいエクスキューズに聞こえ、いわゆるブラック企業の経営者がいかにも言いそうな、都合のいいロジックのようにも思える。

では、このいかにも怪しいフレーズで、幸之助氏が伝えたかった事とはなんだろうか。

 

こんな仕事やってられない

話は変わるが、筆者は大学を出てすぐ、大手の証券会社に入社した。

しかし当時はバブル崩壊後の世相で、株価は一直線に下がり続ける下降局面。どの銘柄を買ってもらってもお客さんを怒らせるばかりで、顧客の家で深夜まで正座させられたこともある。

「はめ込み」と呼ばれる無茶な商品を消化できず、上役に電話帳ほどの厚さがあるドンコ(顧客台帳)で殴られることもしょっちゅうだった。

 

当然すぐに仕事が嫌になり、お正月の席で

「いい会社に入ったな、おめでとう!将来の夢は社長か?」と聞かれ、

「早く60歳になって年金生活がしたいです・・・」と言って、親戚中に笑われた。

 

そんな中、2000年代初頭にITバブルが訪れた。

元々、IPO(株式の新規上場)に関わりたくて証券会社に入ったという経緯もあった。そして深い考えもなく、当時注目されていたITベンチャーにCFOとして転職することを決めてしまう。

しかし、人生はそんなに甘いものではない。数年ほどで会社はリビングデッドに陥り、私は職を失った。しかも当時は結婚したばかりであり、仕事を辞めて専業主婦になったばかりの妻は妊娠中。

「人生完全に詰んだ・・・」と頭を抱えた。

 

そんな中、CFO時代のメインバンクの投資部長から、「やってほしい仕事がある」と言われたのが、ターンアラウンド(事業再生)の仕事だった。

その会社は、率直に言って1年後に事業が存続しているとは思えないほどの会社だった。しかし、考えている暇はない。

3ヶ月後には家賃すら払えないかも知れない危機感の中で、私は経験したことのない「ターンアラウンドマネージャー」として事業再生に乗り出すことになった。

 

生きるために「本物」になろうとした

人間、生きられるかどうかの危機に陥った時ほど、感性が研ぎ澄まされることはない。

私はこの会社のNo.2、経営企画室長についたが、すぐに理解できたことは「経営トップの時間の使い方がひどすぎる」ということだった。

800名の社員を数える会社の社長が自ら、例えば契約書のチェックをし、月次決算の策定を証憑一つから直接、現場のスタッフに指示し作らせていた。いろいろな業者との細かな仕入れ交渉も、経営トップが全て自分であたっていた。

要するに、一番付加価値を稼がなければならない人が、ほとんど付加価値を生まない業務に、多くの時間を浪費していたということである。そうなれば、

「ハイレベル営業」
「数字の把握と業務改善」
「幹部の育成」

など、経営トップ自らが当たるべき仕事ができなくなるのは当然だ。

 

そのため私は最初の1ヶ月で、経営トップから多くの仕事をまず引っ剥がした。

とは言いながら、当然、法務や経理などやったこともない仕事を引き受けても直ぐにできるわけではない。
ではどうするのか。

例えば、他社と取引をする際に最初に締結する、NDA(秘密保持)契約について。

乱暴な言い方をするようだが、こんなものは大手企業の30社程度のサンプルから最大公約数(あるいは最小公倍数)のリスクを抽出すれば、それで十分である。大手企業がNDAに用いている書面など、ネットで検索すればいくらでもヒットする。

であれば、そこで想定されているリスクを網羅すれば、型が決まっているNDA契約の必要十分条件など誰にでもわかる。それでも手に負えない変則的な条件が提示されれば、そこだけ弁護士に聞けばいい。

 

また、数字の実態が掴めない事にストレスを感じていた経営トップの想いを受けて、月次決算の仕組みも根本から見直した。

製造業における経営上の数字の把握とは、結局のところ「ものさし」を統一して、「正常値」と「異常値」をタイムリーに見極める仕組みを作り、対策を打つことに尽きる。そして、これは生命線とも言うべき基本だ。

 

なぜ、ターンアラウンドの初歩であるこのような作業に私がすぐに行き着いたのか、正直だいぶ以前のことなので鮮明には覚えていない。だが尋常ではない本を読み、また相当の時間を投資してネットなどで調べものをしたことだけは覚えている。いくらでも情報を取り出せる時代であることは、本当に幸運だった。

結局のところ、この時に私が支えることになった経営トップは人間的な魅力もあり、また行動力もアイデアも非常に優れた経営者だった。しかし、すべての仕事を抱え込んで何もかもがスタックしてしまい、結果として経営がうまく行ってなかっただけであった。

 

であれば、ターンアラウンドマネージャーとしてやるべき仕事は、「気持ちよく、経営トップとしての仕事ができる環境を作る」ということだけであった。

でしゃばる必要はない。ただ、黒子に徹して経営トップの本来の力を発揮してもらうこと。それが、私のNo.2としてのスタイルになった。そして程なくして、その会社は業績のV字回復を果たすことに成功した。

 

仕事を成功させる法則は、何も変わらない

そして、冒頭でご紹介した松下幸之助の話だ。社員稼業とは、「上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである」と思えと説く。

 

これは本当に、至言だ。

私は切羽詰まった人生の中でやむなく、縁あって就いたターンアラウンドマネージャーのポジションで、組織に足りないものに本気で奉仕しに行くことを決めた。

会社の業績を上向けることができなければ、半年後には確実に沈む泥舟である。であれば、今あるものをなんとか活かして出血を止め、組織の役に立つことで食い扶持を稼がなければならない。そのためには、

「なにか困っていることはありませんか?」

と、経営トップや部下、組織に、常にアプローチし続けることだ。

 

会社組織においては、自分以外の人はお客様であると思って初めて、全員が良い仕事をできる。それでもなお、「一従業員がなぜ、会社のためにそこまでしなければならないのか」と思われるかも知れない。

「あんな社長のために、そこまでやることはバカバカしい」と思ってしまう環境で仕事をしている人もいるはずだ。

 

だが実は、これは経営トップも全く同じである。

経営トップという存在は常に、

「このマーケットで、もっとお客様の役に立てることはないか」
「お客様の本当のお困りごとはなんだろうか」
「どうすればもっと、商品やサービスに満足してもらえるだろうか」

ということを、寝ている時ですら考えている。そうしなければマーケットはたちまち競合に奪われ、会社が立ち行かなくなるからだ。

そんな経営トップと同じ目線で仕事をするということこそが、「上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである」という考え方であるに過ぎない。そして、周囲の人の役に立つことを本気で考え続ければ、経営幹部であれアルバイトであれ、必ず周りがほったらかしておかない。組織であればどんどん重い責任を任され、また経営者であれば、違うステージを任されることにもなるだろう。

 

ちなみに私は、ターンアラウンドの仕事に区切りをつけた時に、大株主であった冷凍食品大手の会長から、年商300億円規模の会社のターンアラウンドマネージャーのポストを打診された。余りの事に驚き、正直感動したことをよく覚えている。

ベタな言い方だが、与えられた環境でベストを尽くし続ければ、誰かが必ず見ている。ぜひ、経営幹部、中堅社員、新入社員、アルバイト・パートなど、働いている立ち位置に関わりなく、

「上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである」

という「社員稼業」の意識で、改めて仕事に取り組んでみてはどうだろうか。

必ず、違う世界が見えてくるはずだ。

 

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