2019/10/15

無能だけど給料が高い「あの人」は、一体何が評価されているのか?

まず結論から言うと「上司の気分を良くする」ことに対して評価されている。

それが彼の正体だ。

 

そして、もし上司の気分を良くする仕事を「くだらないことだ」とバカにするならば、おそらくその人以上の給料をもらうことはできない。

それが会社という場所だ。

 

 

昔話になる。

ある会社に、プロセス改善のコンサルティングに入ったときのことだ。

その会社には、2つの派閥があった。

 

一つは、「実績派」のグループ。

営業部長を中心とした、「実力と実績で勝負だぜ!」という人間たちが固まっている集団。

 

そしてもう一つは「バランス派」のグループ。

管理部長を中心とした、「みんなとうまくやろうよ、波風立てるのはやめようよ。差をつけるのはやめようよ」という人間たちが固まっている集団だ。

 

彼らは表向き、というか社長の前では協調していたが、水面下では熾烈な権力闘争に励んでいた。

 

知人などにこの話をすると、

「後者のグループは平和主義者たちに見える」という指摘をする人もいるが、とんでもない。

実績派の人々は、「実績」というバックボーンを持っているので、政治的動きは控えめであった。

というより、忙しくて政治どころではなかったのだ。

 

ところが、バランス派の人々は、目立ったアピールポイントがない。

したがって、逆に政治的動きを強めて、自分たちの影響力を確保しようと日々動いていた。

それこそ、仕事そっちのけで。

 

例えば人事評価の基準などを決定するときは、この2つのグループの亀裂がよく表面化した。

あるいは予算の決定、決裁権限、挙句の果てにはサーバのファイルアクセス権まで、とにかく争いのネタには事欠かなかった。

 

さて、この争いだが、どちらが優勢だったか。

もちろん「バランス派」だ。

彼らにとっては、「権力奪取」が仕事だったのだから、当然だ。

 

特にバランス派の筆頭たる管理部長は、社長の覚えがよく、その腹心ともども優遇されていた。

私はそれが不思議だった。

「成果を出している方が、成果を出していない(仕事をしていない)方よりも、不遇なんてことがなぜありえんるんだろう?」

と思っていた。

 

そこで私は、件の管理部長と飲み会で同席したとき、さり気なく彼に聞いてみた。

「社長様が部長に全幅の信頼を置かれているとよく感じるのですが、その秘訣を教えていただけないかと。」

 

すると、管理部長は揚々と話し始めた。

「社長はね、いろいろ悩んでいるんだよ。それをきちんとフォローするのが、私の役目なんだ。」

「何に悩んでいるんですか?」

「例えば最近だと、社員のモチベーションの話であったり、売上の話であったりね。」

「社員のモチベーションですか……。」

「そう。例えば営業のリーダークラスがなかなか社員のモチベーションに気を配れていないみたいでね。」

「なるほど……。」

「売上、というのは……営業の話ですか?」

「そうだね、営業をうまくやれば、うちの会社はもっと伸びると思うんだよ。」

「なるほど……」

「経営者は孤独だからね。周りがサポートするのは当然だよ。」

 

私は戦慄した。

この人は、巧妙だ。

 

確かに「社員のモチベーションが低い」のは一部、事実だった。

目標に到達していない営業部員が、営業部長から厳しく仕事について指導されていたからだ。

また、「ウチの会社はもっと伸びる」のも事実だが、それは「営業」だけの責任というよりも、商品開発やアフターサービス、マーケティングの影響も大きい。

 

だが、この管理部長は巧妙に社長に「営業部はマネジメントがイマイチです」と言わないように言葉を選びながら、営業部長のイマイチさを、社長にほのめかしていたのだ。

 

その結果、「ひたすら仕事」の営業部長からガーガー「マーケ不足です」とか「教育に予算を割いてください」とか事あるたびに言われ、営業部長とのコミュニケーションが多少疎ましくなっていた社長は、管理部長の甘言を受け入れ、彼を信用していた。

 

実際、営業部長は社長や社内を見ず、お客さんばかり見ているような人だった。

売る手腕は天才的だが、いつも忙しそうにしており、口が悪く、

「クソ忙しいんのに、ふざけんな」

とよく言っていた。

 

しかし、私は仕事の中身をよく見ていたので、知っていた。

この会社で最も仕事を良くしているのは「営業部長」だということを。

 

だが、世の中は「正直者が報われる」とは限らない。

結局、この会社はその後、管理部長が後に副社長として昇進した。

 

今、この会社がどうなったかは、私は知らないし、あまり知りたくもない。

 

 

スタンフォード大学ビジネススクール教授の、ジェフリー・フェファーは、著書「「権力」を握る人の法則」において、「実績と昇進は関係ない!」と言い切っている。

 

実績と昇進の関係に関しては組織的な調査が行われており、数多くのデータがそろっている。あなたが賢いキャリア戦略を立てたいなら、まずは事実を知っておくべきだろう。多くの組織、多くのポストで、実績はさほど重要な意味を持たないことが、データによって明らかになっている。つまりあなたの仕事ぶりや目標達成度はおなじみの人事評価にも反映されないし、在任期間や昇進にすらさほど影響しないのである。

 

また、ジェフリー・フェファーは「抜きん出た仕事ぶりは昇進につながらないどころか、邪魔になることさえある」と警告する。

なぜなら、「結果を出す人」は何かと周囲に疎まれやすく、また便利に使われてしまうことが多いからだ。

 

私は今では、この話は痛いほどわかる。

「仕事ができる」ことは、出世にとって一つの武器ではあるが、さほど強い武器ではない。

 

上の会社の例で見たように、昇進はほとんど「好き嫌い」で決定されてしまう。

また、そもそも「成果」の定義自体が、捻じ曲げられてしまうことも多い。

 

例えば、上の管理部長は社長に

「売上を伸ばすことは難しくない」と進言し、

「社員のモチベーションをあげることが重要だ」と事あるたびに経営者に囁いていた。

 

この結果「成果」の定義は、管理部長にとって恐ろしく有利になる。

 

結局、「実績」の基準が、権力によって捻じ曲げることが可能である以上、

上司のお気に入り >>>>> 実績

であることは間違いない。

 

この経験は、私を大きく変えた。

上の会社での経験以来、私はあらゆる場所で、部下や客先の若手たちに「社内営業をしろ」と、強く勧めるようになった。

 

「社長と話せ。悩みを聞け。」

「飲みに行くのが好きな部長とは、必ず飲みに行け。」

「仕事ができるやつは、絶対に、上の批判をするな。」

「上に意見をする時には、「今までのやり方もとても良いと思いますが」を、必ず最初に言え」

「嫌いな上司ほど、そいつのために貢献しろ」

「好き嫌いなんて、昇進にとってはどうでもいいこと」

 

これらは「媚びすぎ」だと思うだろうか?

人によってはそう思うかも知れない。

「社畜」と罵倒する人もいるかも知れない。

だが、私は異なった考え方をしている。

 

仕事をせず「社内営業」に長けた人ばかりでは会社が傾いてしまうからこそ、実力があり、結果を出す人がきちんと「社内営業」をして、昇進するような会社を作ることが大事なのだ。

 

そしてそれが、コンサルタントとしての、クライアント企業への大きな貢献だと、私は思っている。

 

 

中国の古典である「史記」に、韓信という人物が出てくる。

韓信は、漢王朝の初代皇帝である劉邦のもとで「大将軍」として抜擢され、国士無双と呼ばれた逸材だった。

 

その韓信の若い頃の有名なエピソードに「韓信の股くぐり」がある。「史記」によれば、

淮陰の屠者の若者に信をばかにする者があってこういった。「おまえは図体がでかく、刀なんかを差してはいるが、内心はただの臆病者さ。」さらにみんなで信を辱めていった。「おれを殺せるものなら、殺してみろ。できないならば、おれの股の下をくぐれ。」韓信はそこで相手をじっと見、それから地面をはって男の股の下をくぐった。町中の人はみな信を臆病者だとあざ笑った。

 

そして、この話には後日談がある。

 

後の話だが、楚王となった韓信は、この男を呼び出して、楚の中尉にとりたてた。「これは壮士だ。自分が辱めを受けた時、殺そうと思えば殺せないわけではなかった。だが、殺しても何の意味もない。だからがまんして、今日の日が迎えられたのだ。」このがまんが大事である。韓信がこの男をとりたててやったのは、自分にそのがまんを教えてくれたと感謝したからであろう。

司馬遷. 現代語訳 史記 (ちくま新書)

 

大きな目的のためには、人に媚びたり、屈辱も甘んじて受ける、との強い意志は、韓信を大将軍にした性質の一つだろう。

 

野心を持ち、大きな器の持ち主なら「社内営業」くらい、ラクラクとこなせるはずだ。

それが、「成果を出せる才能」を持って生まれた人々の、果たすべき責任の一つであろう。

 

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