2019/11/01

ビジネスにおける“ネガティブ”の効用

ビジネスにおける“ネガティブ”の効用ポジティブに前を向いて夢を叶えるべく邁進すべきか、それともネガティブに身を守って危険を回避すべきか。ポジティブ/ネガティブ論争は、ビジネスのシーンではポジティブが優勢、すなわち、前向きに夢を叶えることが素晴らしいと礼賛される傾向があるように思えます。

 

しかし、ネガティブに考えることは、それほど悪いことではないという研究もあります。ちょっと悲観的になりがちな人は周りを暗くしますが、最悪に備えることは決して悪いことではありません。

 

今回は、ビジネスシーンにおけるネガティブの効用と、ポジティブの反作用をみていきたいと思います。

 

サミット・フィーバーによる目標不達成

「サミット・フィーバー」という単語をご存知でしょうか。頂上に到達したい、そう考える執着心のことです。目標設定にこだわりすぎることで、周りが見えなくなり、身の回りに危機が迫っていることすら、感じなくなるという現象に名前がつけられたものとなります。このサミット・フィーバーを最も有名にしたものが、エベレスト登山です。

 

エベレスト登山でいちばん多い死因は、目標設定にこだわりすぎること。つまり、頂上に行きたいという強い思いが、リスクを見誤らせ、滑落などを招くということです。[1]

 

このサミット・フィーバーを名付けたのが、組織心理学者のクリストファー・ケーズ氏です。頂上を目指すという登山家の信念がエベレスト登山時における酸素量の低下、および渋滞などの問題を見えなくしてしまいます。よって、選択肢が消えてしまうのです。「頂上を断念して、引き返す」という、生命を大きく左右する選択肢が。

 

このサミット・フィーバーは、ビジネスの世界に転用され、過剰な目標設定が結果として失敗を招くと解釈されています。[2]

前向きに自己を称揚し、目標達成を高らかに告げる現在の自己啓発(ポジティブ心理学)では、信じられないことかもしれませんが、ポジティブにはこうした反作用の側面もあることは覚えておかなくてはならないでしょう。

 

理想と現実の間で苦しみやすくなる

さらに、あまりに高すぎる目標と、目標への執着は、理想と現実のギャップをうみ、とても苦しくなってしまいます。苦しみはビジネスにおいてよくあることですが、その苦しみが頻繁に、さらには不必要なものまでも発生してしまうということです。

 

また、高い目標を持つがゆえの理想と現実のギャップは、ある重大な落とし穴を招きます。それが、人に動かされやすくなるということです。自分の理想と現実が、そして本音と建前が大きく異なるときは、他者があなたを煽動し、動かそうとしているタイミングかもしれません。

 

人を動かすマーケティングの話

たとえば、マーケティングや心理学の本を読んでいると、「理想と現実のギャップ、本音と建前の差が強いほど、人は動かしやすくなる」という説明に出会うことがあります。私は個人的に、『人を動かす』ということに興味があり、Amazonで読める『人を動かす』系の本をすべて読みました。本当に全部、すべて読んだといいきっても過言ではありません。そこで頻繁にでてくるのが、理想と現実(本音と建前)にギャップがあるとき、人は動かしやすいということです。[3]

 

ここで、筆者個人の話を書いてみます。私は文章を書いて暮らしていますが、もっと文章がうまくなりたいと常に感じていました。でも、現実はちっとも上手にならないのです。そこに密かに深く悩んでいたからこそ、インターネットで3,000円もする電子書籍を買ってしまいました。文章がうまくなり、仕事がどんどん取れて、書いた文章が検索にも強くなるという触れ込みの電子書籍です。

 

3,000円出して、読んでみて、内容のあまりの低レベルぶりに悲しくなり、怒りがわいてきました。正直3,000円は、大人の私にとってそれほど痛い金額ではありません。しかし、理想と現実のギャップをつかれて、上手にセールスされてしまったことに、とても悔しくなったのです。この失った3,000円からの学びは大きく、自分にギャップがないか、いつも自己点検するようになりました。

 

ハーバードビジネススクールの研究

一方で、ハーバードビジネススクールのワーキングペーパーでも、「Goals Gone Wild: The Systematic Side Effects of Over-Prescribing Goal Setting」(過剰な目標設定の副作用)とあります。[4]

冒頭の“Goals Gone Wild”は、Gone with the wind(風と共に去りぬ)のパロディなので無視していいのですが、大切なのは本文です。過剰な目標設定は失敗のもとであり、同時に利益を低下させ、モチベーションを壊し、さらには悪の道へと走らせることがあります。

 

どちらかというと、曖昧な目標設定、未来が見えない社会において、今を生きることに集中したほうが、結果として目標達成度が高いという研究です。

 

アドラーの話

しかし、心理学者のアドラーは理想と現実のギャップは悪いものではないといいます。なぜなら、理想と現実のギャップというのは、客観的な指標で比べたものではなく、主観的なものでしかないからです。[5]

 

理想と現実のギャップは劣等感を生みます。しかし劣等感の正体は主観だからこそ、いくらでも自分を変えて成長していける、自己成長につながる、現在にフォーカスすることで、過去と未来を変えて人生を変える、それがアドラー心理学の真骨頂です。

 

ギャップがあるとき、どうやって自分を変えるか 。アドラーに限らず、現在の心理学研究によると、それは「意味づけ」です。苦しんでいる現在に意味を付与すること、それによって、主体性を取り戻しその(主観的な)苦しみを除去し、成長していきます。

 

また私の話に戻りますが、3,000円の電子書籍を買って失敗し、自分に理想と現実のギャップがあることを自覚した私は、自分の下手くそな文章に意味付けを行いました。文章が下手なのに、私はブログを書けばみんなが熱心に読んでくれ、自分の出した電子書籍も飛ぶように売れるということは、自分の中身に価値がついてるのだと。私はこのリモートワーク時代に、中身が必要とされるというとても大切な価値を持っているのだと、意味づけしたのです。

 

これによって、少し苦しさから逃れられ、同時に人に動かされやすくなるということも減りました。

 

まとめ

ネガティブの効用といいますか、ポジティブの反作用をみてきました。海外の研究ではポジティブに自己を称揚するという考え方よりも、ネガティブの落とし穴が多く報告されています。

 

とくに、登山においては、目標への強い執着が命を脅かすという報告が、動かしがたい事実としてあります。サミット・フィーバー。目標への熱狂で、ときに苦しんでいることはありませんか? そんなときは、苦しい現実に意味を再定義してみてください。そうすれば、活路が見いだせるはずです。

 

また、もしも私が『人を動かす』関連本をすべて読んでいなかったら、そしてこうした研究を学ばなかったら、きっと3,000円の電子書籍を売った人を個人的に恨んで人生を浪費していたことでしょう。そう考えると、人生を良くしてくれたので、安い買い物だったのかもしれません。

 

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筆者:名もなきライター

 

参照

[1] 1996年のエベレスト登山災害。チーム学習の内訳 クリストファー・ケーズ
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0018726704048355
[2]ビジネス・インサイダーの サミット・フィーバーの記事
https://www.businessinsider.com/summit-fever-mountain-death-bad-decisions-company-2019-5
[3]『人を操る禁断の文章術』メンタリストDaiGo
[4]ハーバードビジネススクール「Goals Gone Wild: The Systematic Side Effects of Over-Prescribing Goal Setting」
http://www.hbs.edu/faculty/Publication%20Files/09-083.pdf
[5]『嫌われる勇気』古賀 史健