2019/11/13

わずか15年で3件ものノーベル賞を出した「行動経済学」の知見が、仕事の役に立ちすぎる件。

すこし前、書いた記事が累計50万回以上も読まれた。
(参考:なぜ「事実」と「意見」を区別して話せない人がいるのか。

これは、実際、「事実」と「意見」を区別して話せない人が、身の回りにとても多いからなのだろう。
Twitter上でも、共感の声が多い。

だが、なぜそうなってしまうのか。

それは「人は、出された質問が難しいと、それを簡単な質問に置き換えてしまう」ように脳ができているからだ。
これは、心理学と経済学の融合を果たした「行動経済学」という学問分野の知見による。

アダム・スミス以来、経済学は「人は合理的な行動をする」という前提のもとに、学問体系が積み上げられてきた。
しかし、多くの人が認識している通り、人間の選択は感情に左右され、とても合理的とは言えないことも多くある。

そこに一石を投じた「行動経済学」は、従来の経済学よりも、より現実を反映する予測が可能だ、と考えられている。

そのためこの「行動経済学」は、今最も注目を浴びている学問分野の一つだ。
事実、行動経済学は「15年間に3件のノーベル賞受賞」という卓越した業績を誇る。

その「行動経済学」の始祖の一人が、ダニエル・カーネマンである。

2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマンだが、その著書「ファスト&スロー」は面白い上に、極めて有用だ。

また、2017年に、同分野でノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーの著書「行動経済学の逆襲」も、マネジメントの現場で有用な知見に溢れている。

特に素晴らしいと感じるのは、私がコンサルティングの現場で
「著名な経営者が言っているけど、本当にそうなの?」とか
「「常識」として扱われているけど、本当に信じていいの?」など、
疑問に思ってきたことの数々が、行動経済学の見地から科学的に検証されているからだ。

詳しくは、カーネマンやセイラーの著書を見ていただくほうが良いのだが、その中でも仕事の現場で役に立つ知識をいくつか、紹介しておこう。

 

1.上司への悪い報告は、良い報告とセットで。かつ悪い話は先にせよ。

「良い話から聞きたい?それとも悪い話から?」などというやり取りを、映画のなかでよく見るが、
実際に会社でこれを行う際は、どちらが良いのだろうか。

行動経済学の観点からすれば、これは必ず、「悪い話から」だ。
なにせ、「終わりよければ全てよし」が実際に確かめられているのだ。

ダニエル・カーネマンはこれに「持続時間の無視とピーク・エンドの法則」と名付けている。

・ピーク・エンドの法則──記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の苦痛の平均でほとんど決まる。
・持続時間の無視──検査の持続時間は、苦痛の総量の評価にはほとんど影響をおよぼさない
(ファスト&スロー)

人間が感じる「苦痛の記憶」は、その持続時間ではなく、「一番苦痛だった時」と「苦痛の最後」の平均によって保持される。

したがって、どうせ悪い話をしなければならないのであれば、「ピーク」は変えられないが、「最後」を良い話にすることによってその話の印象を変更することができるのだ。

例えば上司へ悪い報告をするときは、良い報告とセットで。かつ悪い話は先にせよ、これが鉄則だ。

 

2.人材育成は「褒めても叱っても同じ」

例えば部下の指導について、「褒める」のと「叱る」のと、どちらが良いのか?という疑問がある。

例えば、ファスト&スローには、こんな逸話が出てくる。

カーネマンがイスラエル軍の教官に、訓練効果を高めるための心理学を指導していた時。

空軍の飛行訓練の教官から「とにかく叱るべきだ」と言われた。
事実、教官の観察では、教官が訓練生の操縦を誉めたときは次回にへたくそになり、叱ったときは次回にうまくなるということがよく起きた。

教官たちは「だから叱るべきだ」と主張するのだが、カーネマンはこれについて、「不出来だったあとはよくなるし、上出来だったあとはまずくなるのであって、これは誉め言葉や叱責とは関係がない」と述べている。

これは、人間の脳は些細なことに「因果」を発見してしまうバグがあり、統計的な事実を理解できないためだ。

上の教官は「褒める」から「結果が悪くなる」、「叱る」から「結果が良くなる」と勘違いしてしまっていた。
だが実際は、単に結果がランダムであり、「極端に悪かったら、次回はすこしマシになる」「極端によかったら、次は当然悪くなる」という現象が起きていただけだ。

 

3.昇給はできるだけ小刻みに。できる社員にはカネでなく「地位」を。

「幸福な従業員」は、高いパフォーマンスと関係があると、多くのエビデンスが示している。
https://www.rieti.go.jp/jp/special/from-iza/005.html
だが、従業員を幸福に保つためにはどうすれば良いのか。

一つには、「思い切って給料を高くすれば、従業員の幸福度が上がって、仕事のパフォーマンスを上がるよ」という意見がある。

しかしまた他方では、私の知る経営者はこんなことを言っている。
「優しくすると、従業員は逆に怠けるようになる。給料を上げれば、もっとよこせと騒ぐ。従業員は「ちょっと厳しい」という待遇ぐらいが最もパフォーマンスが良いのだ。」

一体どちらが正しいのだろうか。
幸福経済学を専門とする行動経済学者、ニック・ポータヴィーは、著書「幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円!?」で、世帯収入の50パーセント増に人々が完全に慣れるまでにはたった4年しかかからないという研究に触れている。

具体的に言えば、年収400万円の人が、年収600万円となったとしても、それはたった4年で「慣れて」しまう。
要は「思い切って給料を上げて、従業員を幸福にする」のはコストパフォーマンスが悪い。

さらに、ニック・ポータヴィーは「お金よりも「自分の順位」のほうが意味を持つ」と述べる。

結局、従業員に対しては
・給与は、少しずつ、できるだけ小刻みに上げ、幸福が持続する期間を長くすること。
・パフォーマンスの高い人には、社内の他の人との「差」を明確につけること。例えば肩書、地位を与えるほうが従業員の幸福は長く持続する。

という結論になる。

 

4.成功企業を検証して法則を導こうとする行為は無意味

ダニエル・カーネマンは「成功企業を検証して法則を導こうとする行為」はほとんど無意味

だと述べている。なぜなら、これらのほとんどが真理を述べておらず「ハロー効果と後知恵バイアス」によるものだからだ。

ハロー効果……何か一つが優れていると、ほかも優れていると感じる
後知恵バイアス……過去の事象に対して感じた驚きを後になって過小評価する

これは、人間は「うまくいっている企業には、必ずなにか合理的な理由があるはずだ」と思い込んでしまうためによる。

だが実際、データが証明しているのはそれと真逆の結果だ。
分析から導き出した法則の多くは普遍性、再現性がない。「その時」「たまたま」うまく行ったことがほとんどなのだ。

『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、おおまかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。
トム・ピーターズとロバート・ウォータマンのベストセラー『エクセレント・カンパニー』(大前研一訳、英治出版)で取り上げられた企業の平均収益も、短期間のうちに大幅減を記録している。
またフォーチュン誌の「最も賞賛される企業」にランクされた企業を二五年にわたって追跡調査したところ、最下位あたりにランクされていた企業の株式リターンが最も賞賛された企業を上回っていたという報告もある。
(ファスト&スロー)

カーネマンの言う通り、「少し前に」成功した企業の分析をするよりも、「いま」自分たちがやらなければならないことを、実際の市場と、お客さんの行動データをもとに分析するほうが、有用だろう。

 

5.「わかりやすい」だけで、「知的だ」「信頼できる」と認識される

人間はわかりやすいものを好む。
そしてこの「わかりやすさ」は、人間の認識に、極めて大きな影響を与える。

具体的に言えば、
「わかりやすいもの」は、
親しみを感じ、説得力があり、心地よくて、信頼でき、知的に感じるのだ。

これは人間の脳が「認知に関しての負荷が低いほど、好ましいと感じる傾向」を有しているいことに由来する。

ダニエル・カーネマンはもっと極端な例もあげており、例えば、

「鶏の体温」という単語を繰り返し示されただけで、
「鶏の体温は四四度である」という荒唐無稽な文章が出てきた時にすら「正しい」と判断しやすくなると述べている。

文章の一部に馴染んでいるだけで、全体に見覚えがあると感じ、真実だと人間は考えてしまうのである。

また「大きなフォント」や「周りと異なる色使い」も
人間の脳の認知負荷を減らし、「正しい」という判断を起こしやすい。

たとえば

田中角栄の生年は、一九一七年である
という文章と
田中角栄の生年は、一九二〇年である

という文章では、後者の大きなフォントをつかった文章のほうが「正しい」と認識されやすいことがわかっている(実際にはどちらも間違い。一九一八年が正)

読みやすい名前の会社の方が、株式公開直後の株価が上がりやすく、スラスラ発音できる名前の会社は、無骨な名前の会社よりも利益率が高いと投資家に判断され、プレゼン資料はわかり易いほど信頼性が高いとみなされる。

とにかく「相手の負荷を下げる」ことは、企業やビジネスパーソンにとっては、真の意味で正義だと言えよう。

以上のようにすこし紹介しただけでも仕事の役にすぐに立ちそうなネタが、行動経済学には満載だ。
すでに公共政策などにも行動経済学の知見は反映されており、有用性は折り紙付きである。

参考までに、推薦する文献を最後に挙げておく。
個人的には、リチャード・セイラーの「行動経済学の逆襲」にかかれているスキー場の再生プロジェクトの話などは非常におすすめで、ビジネスパーソンであればぜひ呼んでおくべきものである。

ファスト&スロー ダニエル・カーネマン 早川書房
行動経済学の逆襲 リチャード・セイラー 早川書房
実践行動経済学 リチャード・セイラー+キャス・サンスティーン 日経BP社
予想通りに不合理 ダン・アリエリー  早川書房
スイッチ! チップ・ハース&ダン・ハース 早川書房

 

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