2020/01/24

「強み弱み」論の「次」に進もう

「強み」と「弱み」という言葉は、ビジネスシーンにおいて一種の流行語になっています。経営者であれば「強みを伸ばして、弱みを排除して、経営資源の選択と集中を進める」といった意味の言葉に接することも多いでしょう。就活をしている人は「自分の弱みを見つめながら、強みをPRせよ」と教わることが多いかも知れません。
中小企業庁も「経営革新には、経営者が自社の強みや弱みを把握する必要がある」と述べています[1]。

その強みと弱みですが、SWOT分析という経営論に登場するほどメジャーな概念でもあり、最近は、強み弱み論の「次」を見据える動きが現れてきました。

 

 SWOT分析のなかの「強み弱み」とは

 

強みと弱みの「次」をみる前に、強みと弱み「そのもの」を確認しておきます。
経営論を語るときに必ずといってよいほど登場するのがSWOT分析です。強みと弱みは、このSWOT分析の核をなす概念です。

 

SWOT分析とは

SWOT分析とは、Strengths(強み)、Weakness(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの視点で、企業の現状や経営目標、経営理念を分析する手法です[2]。
この4つは、内部と外部、プラス要因とマイナス要因にわけることができます。
強みと弱みは、企業の内部を観察する視点です。機会と脅威は、企業の外部環境を分析するときの視点です。
強みと機会は、プラス要因です。弱みと脅威は、マイナス要因です。

このなかから強みと弱みだけを抽出するとこうなります。

・強みとは、内部の問題であり、プラス要因になる
・弱みとは、内部の問題であり、マイナス要因になる

このことから、企業やビジネスパーソンが、強み弱み論を意識すれば、プラス要因を増やしてマイナス要素を減らすことが可能になり、企業を発展させたり、自分を成長させるための基本的な考え方を得ることができます。

 

中小企業庁の「強み弱み」論のすすめ

中小企業庁は、「強みがまったくない企業は、この世に存在し得ない」と言っています[1]。
中小企業庁は、企業の強みを、他社が真似できない技術やノウハウを有し、他社に対して優位性を持っている状態、と定義しています。そして、企業が存続している以上、技術とノウハウの優位性を有しているはずだ、と考えています。だから、企業には必ず強みがある、と断言できるわけです。

ただし、すべての企業が強みを持っていても、すべての企業が経営革新を達成できているとは限りません。ビジネスの競争が激しくなり、消費者の価値が多様化すると、経営革新を達成できない企業の強みは、次第に弱まってしまいます。

中小企業庁は次のような事例を紹介しながら、強みを維持する経営革新の重要性を訴えています。

・繁盛している飲食店の店主が、「自分の店の味が優れているから繁盛している」と思い込んでいても、実は、駅前という立地が他店より優れているだけだった

この店は、店主の勘違いにも関わらず、しばらくは繁盛し続けるでしょう。しかし、駅前の再開発で飲食店ビルが建ち、新しい飲食店が登場したら、すぐにピンチに陥ります。
しかも店主は、すぐに対策を取ることができません。なぜなら「味が優れている」と信じているので、「客は、新しい店に飽きたら、うちの味を求めて戻ってくるはずだ」と考えてしまうからです。

中小企業庁は、この飲食店店主を反面教師として、強みを「正確に」把握することこそ、経営革新のスタートラインであると考えています。
中小企業庁は、中小企業金融公庫の次の調査結果を紹介しています。
経営革新を達成できた企業のうち、「強み弱みの把握(SWOT分析)」をしていた企業は32.4%にのぼります。
これは「市場における自社商品の位置づけの分析」の32.2%や、「従業員1人あたりの生産性の分析」の30.4%、「損益分岐点分析」の29.7%を上回りました。

強み弱み論が、企業経営者やビジネスパーソンにとって重要であることは、このようなエビデンスからも明らかです。

 

「強み弱み」論を踏まえたうえでの「次」

 

強み弱み論は、現代でも有効な経営論です。しかし、日本の経済力は、中国に追い抜かれて久しく、アメリカ経済に対しては、はるかに及ばない状態にあります。
したがって日本企業や日本のビジネスパーソンは、強み弱み論の次を見据える必要があるでしょう。
「脱・強み弱み論」ではなく「強み弱み論の次」であるところがポイントです。

 

強みを見つけてからの行動が大事

早稲田大学ビジネススクール教授、内田和成氏は、かつてコンサルティング会社にいましたが、そこにいた25年の間に、SWOT分析を使ったことは一度もないそうです[3]。
ただ、強み弱み分析をしないわけではありません。内田氏は、経営者の本当の経営や、ビジネスパーソンの本当の仕事は、自社や自分の強みを見つけた次にある、と説きます。それは次のとおりです。

・分析結果から重要な要素を感じ取るセンスを身につけること
・正解がないモヤモヤしたなかで決定して行動していくこと

強みを見つけてからの行動が重要であるわけです。

 

事業の成功に焦点を当てる

強み弱み論を進化させた経営論もあります。それはKFSです[4・5]。Key Factor for Successは「事業を成功させるためのキーとなる要因」と訳されます。

この日本語だけでは、強み弱み論とKFSの違いが判りません。「強みを伸ばして弱みを排除することがKFSなのではないか」と感じられます。
しかしKFSは、単なる強み弱み論ではありません。

KFSでは、例え自社に強みが見つかっても、それがその会社の事業にとって重要でなければ「その強みを伸ばしても、競争に勝つことはできない」と考えます。
また、例え自社に弱みが見つかっても、それがその会社の事業にとって重要でなければ「大した問題ではない。放置しておいてよい」と考えます。
なぜ、せっかくの強みを伸ばさず、ようやく見つけた弱みを放置するのでしょうか。それは、企業の経営資源には限りがあるからです。
だからこそ、「事業を成功させられるか」という視点が重要になるのです。
企業は、単なる強みではなく、事業を成功させる強みにフォーカスすべきであり、単なる弱みではなく、事業の足を引っ張っている弱みを潰さなければなりません。

またKFSでは、「KFSは移り変わる」と考えます。例えば、ガラケーのソフト開発で優位にあった企業が、スマホのアプリ開発に乗り遅れて衰退する、といったケースは、KFSの移り変わりをとらえられなかったと考えることができます。
技術革新や顧客ニーズの変化、法規制などにより、かつての強みが、その力を失うことは十分起こり得ます。
野村総合研究所は「KFSが変わる局面では、成功企業が入れ替わるケースが多くなっている。企業が生き残るには、従来の成功体験にとらわれず、KFSの変化に素早く対応する必要がある」と指摘しています。

KFSの考え方からも、強み弱み理論を否定する必要がないことがわかります。企業は依然として、強みを伸ばし、弱みを潰すようにしなければなりません。
しかしKFSの考え方を実践するには、いつまでも従来の強みに「しがみつく」ことなく、重要でない弱みを深刻に考えないことが大切です。

 

「弱みが強みになる」とは

 

強み弱み論の次については、神戸大学大学院経営学研究科教授、栗木契氏の「弱みが強みになる」という指摘も注目できます[6]。

精神疾患治療のひとつに、リフレーミングという心理療法があります。リフレーミングでは、何かに行き詰ったとき、今の自分を受け入れ、今の自分にできることを考えます。
そして、何かに行き詰まったときに、あえて、変化のための新しい何かを求めません。なぜなら、新しい何かを求めると「今の自分」と「こうあるべきだという思い」にギャップができてしまうからです。それは問題を複雑化させるだけです。
リフレーミングでは、弱みや欠点を克服するのではなく、弱みや欠点のなかに潜んでいる可能性に注目します。

栗木氏は、この考えをビジネスに応用した、マーケティング・リフレーミングを唱えています。制約や弱みというマイナス要素をプラス要素に変えることを重視する考え方です。
栗木氏は、マーケティング・リフレーミングの成功事例として、次の2つを挙げています。

”舞妓や芸妓の行き交う京都の花街のお茶屋は、いまだに「一見さんお断り」の慣行を守っています。お座敷の需要が十分にある時代ならともかく、需要が減少傾向にある場合には、この慣行は花街の制約です。(中略)
制約があればこそ生まれる希少性があります。感心するのは、京都の花街の人たちが、目先の制約を無理に動かそうとして、希少性の源泉を枯らしてしまうことなく、その活かし方を、時代の変化に応じて次々と生み出してきたことです。”

”世界初のアルコール0.00%のビールテイスト飲料」で話題を集めたキリンフリーは、発売直後の2009年5月にコンビニのビールテイスト飲料市場で、95.3%という圧倒的なシェアを獲得しています。そのひとつの重要な要因は、従前のビールテイスト飲料市場の低迷を目にしたライバル企業がこの市場に力を入れなかったことです。このように、競争の問題を考えると、多くの人々や組織が目を背けがちな制約や弱みであるからこそ、可能性があるのです。”

マーケティング・リフレーミングも、強み弱み論を否定しているわけではありません。しかし、強み弱み論でとどまっているだけでは到達できない考え方なので、やはり「強み弱み論の次」の理論です。

 

総括~技術と市場の進化に追いつくために

 

技術も市場も進化している以上、経営論も進化させる必要があります。強み弱み論の有効性が失われていなくても、昔の強み弱み論のままで戦えるはずがありません。
KFSやマーケティング・リフレーミングなどの経営論は、「強みと弱みはわかった。それからどうする」といった視点を持っています。
強みがあるのに業績が伸びない企業やビジネスパーソンは、強みの進化を検討する必要があるのかもしれません。

 

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[1]:経済構造変化と中小企業の経営革新等(中小企業庁)https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h17/hakusho/html/17212240.html
[2]:会社の強み・弱みを洗い出す「SWOT分析」とは?(幻冬舎)https://gentosha-go.com/articles/-/11045
[3]:「方法論やフレームワーク」が実は使えない理由(早稲田大学ビジネススクール教授、内田和成)https://toyokeizai.net/articles/-/293096?page=4
[4]:自社の強みと弱みを知る(1)~教科書の強み弱み分析は実戦に役立たない~(日本能率協会コンサルティング)https://www.jmac.co.jp/wisdom/marketing/151.html
[5]:KFS(野村総合研究所)https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/kfs
[6]:「弱みは強み」(神戸大学大学院経営学研究科教授、栗木契)https://www.dhbr.net/articles/-/1646