2020/01/30

アサーションの“Win-Win”がビジネスを変える力になる

アサーション(アサーティブコミュニケーション)をご存じでしょうか。
現在、職場でのニーズが高まっているコミュニケーション・スキルです。

管理職が社員の人間性を尊重する。
1人ひとりの個性や潜在能力を重視したマネジメントを行う。
社員が創造性と潜在能力を発揮しながら積極的に組織に関与する。
こうした目的のために、多くの職場がアサーション・トレーニングを取り入れています。

アサーションによる自由な発想や積極的な発言はイノベーションを促進し、人間関係を基盤とした仕事への関わりはコンプライアンスの推進にも役立つといわれています [1]。

さまざまな文化や属性の違いに目を向け、新たな付加価値観を創出しようとするダイバーシティにおいても、アサーションは大きな基盤となるでしょう。
さらに、取引先との関係にもいい影響をもたらすことが期待できます。

このように、アサーションはビジネスにパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。

では、アサーションとはどのようなものでしょうか。

 

アサーションがもたらす“Win-Win”パラダイム

 

アサーションとは、自分を抑えすぎずに要望や意見を相手に伝えるコミュニケーションの方法論です。
特徴は、相手に対する配慮、誠実であること、率直であること、対等であること、そして“Win-Win”の関係です。

名著『7つの習慣』で知られる、リーダーシップ論の権威、故スティーブン・R・コビーは、“Win-Win”について、以下のように述べています [2]。

Win-Winはすべての人間関係において、必ずお互いの利益になる結果を見つけようとする考え方と姿勢である。何かを決めるとき、問題を解決するときも、お互いの利益になり、お互いに満足できる結果を目指すことである。
(中略)
Win-Winの根本には、全員が満足できる方法は十分にあるという考え方がある。誰かが勝者になったからといって、そのために他者が犠牲になって敗者になる必要なぞない、全員が勝者になれると考えるのである。

アサーションは、こうしたWin-Winパラダイムを内包しています。
このことがビジネスにいい影響を与える要因ですが、その詳細は後ほどお話ししたいと思います。

 

アサーティブとはどのようなことか、それはなぜか

 

アサーティブな態度とはどのようなものでしょうか。
それは、次のように総括できます。

  • 自分と相手の人権と自由を尊重する
  • 自分の考え、信念を正直に率直に伝え、相手にもそれを奨励する
  • 相手との葛藤を想定し、双方が納得できる結論を出すべく努力する
  • 歩み寄りの精神があり、満足のいく妥協案を探る
  • 言ったことも、言わずにすませたことも、すべて自己責任として自分で引き受ける

こうした態度は、ビジネスパーソンに有益なナレッジとしても十分、機能するといえるでしょう。

アサーティブであるということがどのようなことか、もっと具体的にみていきましょう。

以下のリストに「はい/いいえ」で答え、アサーション度をチェックしてみてください。
果たしてあなたのアサーション度は?

表1 アサーション度チェックリスト

参考:平木典子(2009)『改訂版 アサーション・トレーニング―さわやかな<自己表現>のため
に』 発行所:日本・精神技術研究所、発売元:金子書房 pp.13-14 を抜粋・参考にして筆者作成


では、なぜアサーションによってこのようなことが実現するのでしょうか。
それは、アサーションが人権意識に裏づけられているからです [1]。

アサーションはもともと行動療法として、1950年代にアメリカで開発されたものです。
当初は対人関係がうまくいかない人や自己表現が苦手な人に対するカウンセリングの手法でした。その理論と方法は現在もアサーション・トレーニングの基礎になっています。

1970年代になって、アサーションはより多くの注目を集めるようになりました。
アメリカの心理学者アルベルティとエモンズが著した“Your Perfect Right”がベストセラーになったからです。
その本の中で、彼らは次の3つの権利を唱え、「アサーション権」と名づけました [3]。

1.自分自身でいる権利
2.自分自身の存在を表現する権利
3.自分自身でいること、自分自身の存在を表現することに対して、無力感や罪悪感を感じないでいる権利

さて、それに遡ること数年。
1960年代からアサーションはアメリカにおける黒人や女性への差別撤廃運動と連動し、運動を推進する人たちに大きな影響を与えていました。

その象徴的存在がキング牧師(Martin Luther King Jr.)です。
キング牧師はスピーチの名手でした。
1963年、20万人の聴衆の前で彼が話した“I have a dream” は歴史に残る演説といわれています。

非暴力を貫きながら、攻撃的にならず、しかも堂々と権利としての平等を主張した彼のアサーティブな姿は大勢の人々に影響を与えました。

しかし、パラダイムシフトは、多くの混乱と疑問を産み出します。

平等とはなにか。
人権とはなにか。
人権を行使するとはどのようなことか。

こうした疑問に応えたのが、先ほどお話しした“Your Perfect Right”だったのです。

冒頭でお話ししたように、こうした流れは現在、職場にまで及んでいます。

 

アサーションは日本人のメンタリティにもなじむのか

 

先ほどのリストをチェックしながら、自分には無理だ、そもそもアサーションは日本人のメンタリティになじむのか、と思われた方もいらっしゃるでしょう。

他ならぬ、筆者もそのひとりでした。
筆者とアサーションとの出会いは20数年前、今の仕事を始めたころに遡ります。
そこには、やむにやまれぬ事情がありました。

筆者は外国人と接する仕事をしています。
コミュニケーションの相手は日本人より外国人の方が圧倒的に多いという毎日です。
彼らと接するとき、いわゆる日本式のコミュニケーションでは、全く通じません。
こちらの感情や意見をはっきり伝えなければ、伝えたいことを受け取ってもらうことはできません。
いわば知らず知らずのうちにアサーションを強いられているような日々でした。

文化というのは一筋縄ではいかないもので、頭では異文化を理解しているつもりでも、心の奥底からそれを受け入れることができるかというと、なかなか難しいところがあります。

日本語が大好き! 日本語の奥ゆかしい表現が大好き!
そんな筆者が、日本人のメンタリティに蓋をして、彼らに合わせて率直にものを言い、明示的なコミュニケーションを重ねていくうちに、ギシギシと軋むような違和感を覚えるようになりました。
その違和感が切実な痛みを伴うようになってきたとき、メンタルケアが必要だと自覚しました。
そんなとき、カウンセラーだった友人が紹介してくれたのがアサーションだったのです。

先ほど「アサーション権」についてお話ししました。
「アサーション権」は具体的に数えると100以上あるといわれていますが、基本は自己表現の権利です。

ただ、間違えてはならないのは、「アサーションしてもよい」【権利】のであって、「アサーションしなければならない」【義務】というわけではないということです。
アサーション権の中には、実は次のような権利も含まれています。

私たちには、自己主張をしない権利もある

したがって、アサーティブではない方がうまくいくと思ったら、そうすればいいのです。

この権利は、「なにがなんでも明示的なコミュニケーションでなければならない」というそれまでの呪縛から筆者を解放し、大切な気づきを与えてくれました。

どのようなコミュニケーションをとるかは、自己責任で選択する。
したがって、その結果も自己責任で引き受ける。

シンプルな原理でした。
自分で選択したコミュニケーションが負担なら、自分でその選択を変えればいいのです。
筆者は、それをきっかけに自分らしいコミュニケ―ションのあり方を模索するようになりました。

大切なのは、自分が自分らしくあるためのコミュニケーションです。
そして、それと同時に、それが相手を尊重するコミュニケーションでもあるという点です。
それ以外の選択は本人に任されています。
あなたらしいコミュニケーションを成立させていくのは、あなた自身なのです。

 

あなたはどのタイプ? あの人は

 

アサーティブな言動はアサーティブではない言動と比較することによってより明らかになるでしょう。

アメリカの心理学者ウォルビィ(Wolpe,J)は人間関係における自己表現を次の3タイプに分けました。

1.非主張的(non-assertive)
 自分より他者を優先し、自分のことを後回しにするタイプ
2.攻撃的(aggressive)
 自分のことだけを考えて他者を踏みつけにするタイプ
3.アサーティブ(assertive)
 自分のことをまず考えるが他者にも配慮するタイプ

この3つのタイプをドラえもんのキャラクターになぞらえることもあります。
もうおわかりでしょう。
1は・・・そう、「のび太」、2は迷うことなく「ジャイアン」、3は・・・永遠の「しずかちゃん」ですね。

もちろん、ひとりの人が常に同じタイプというわけではありません。
自己表現は、そのときどきの相手や状況によって変わる方が自然かもしれません。
でも、おしなべてと考えてみてください。

以下の表2は、タイプ別に自己表現の特徴をまとめたものです。

表2 ウォルビィの3タイプと自己表現の特徴

出典:平木典子(2009)『改訂版 アサーション・トレーニング―さわやかな<自己表現>
のために』 発行所:日本・精神技術研究所、発売元:金子書房 p.30を基に筆者作成


この表をみると、アサーティブは「非主張的」でも「攻撃的」でもない第3のあり方だということがわかります。
また、「私もOK、あなたもOK」というところに、先ほどみたWin-Winパラダイムが表れていますね。

例えば、会議などで意見が対立したとき、それぞれのタイプはどのような反応を示すでしょうか。
まず、「非主張的」タイプは、対立を回避するため、自分の意見を撤回したり黙り込んだりしてしまいます。
次に、「攻撃的」タイプは、優位に立とうとするあまり、相手の言うことに耳を貸さず、とにかく相手を攻撃します。
一方、アサーティブは、はじめから意見が異なる可能性を想定しています。そして、相手の意見に耳を傾け、自分も率直に主張しながら、お互いに満足できてお互いの利益になるようなWin-Winの解決策を探ります。
こうしたコミュニケーションが健全な人間関係の構築を促すと同時に、シナジーやイノベーションをもたらすのです。

あなたはどのタイプでしょうか。
あなたの周りの人は?

 

アサーションが気づかせてくれること

 

あなたには、あなた自身でいる権利があります
あなたの相手にも、あなた同様、自分自身でいる権利があります
ですから、自分も相手も尊重しましょう

根源的で抗いようのないコンセプトです。

ビジネスがそれに関わる人々にとって自己実現の手段となり得るためには、ビジネスをこうしたコ
ンセプトと矛盾なく実現していくことが条件となるでしょう。
いいかえれば、そうなってこそはじめてビジネスは価値をもつということです。

アサーションは実にシンプルで深いところにコミットしているのです。

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参照
[1]引用・参考)平木典子(2009)『改訂版 アサーション・トレーニング―さわやかな<自己表現>のために』 発行所:日本・精神技術研究所、発売元:金子書房
[2]引用)スティーブン・R・コヴィー フランクリン・コヴィー・ジャパン訳(2015)『完訳 7つの習慣』 キングベア―出版
[3]引用)菅沼憲治(2017)『増補改訂 セルフ・アサーション・トレーニング』 東京図書