2020/03/09

災害大国日本、企業の心臓となる「BCP」で攻めの防災を

地震や異常気象といった自然災害、そして現在パンデミックの様相を呈している新型コロナウイルスなど、サプライチェーンの断絶や事業所の閉鎖を余儀なくされるなるケースが相次いでいます。

このような緊急事態が生じた時、いかに短時間で復旧して事業を再開、継続するのかを事前に策定しておくのが「BCP(=Business Continuity Plan)」です。

「何かあったときにどうするのかを考える」のではなく「非常時にはこのように行動する」という指針を策定することで、防災や減災に役立てるというもので、多くの企業が導入しています。

 

BCPへの意識の高まり

 

緊急事態に見舞われた際、企業がすべきこととして多くの項目が浮かぶことでしょう。

まずは従業員の安否確認と身の安全の確保、事業所への被害があった場合は一早い復旧、外部からの問い合わせへの対応など、色々な事態を想定すればするほどたくさん出てきます。
そして、事業をなるべく早く再開し、その後の経営を守らなければなりません。

BCPとはわかりやすく言えば、非常事態で事業が中断に追い込まれても経営を安定させるために、事前の「決まりごと」を作っておくというものです(図1)。

図1 BCPの狙い(出典:「中小企業BCPガイド」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/bcp_guide.pdf  p5

 

被害が甚大になると従業員と全く連絡が取れなくなったり、指揮系統が乱れたりして、まず社内の混乱を収めるだけで時間がかかってしまいます。
また何かが起きるごとに逐一指示を出しているようでは会社としても手間がかかりますし、経営側も従業員も、高いレベルでの防災意識はあまり身につきません。

近年、大規模災害が相次ぐ中で、BCPを策定する企業は増えています(図2)。

図2 BCP策定状況の推移(出典:「企業の事業継続および防災の取組に関する実態調査」内閣府)
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/h30_bcp_report.pdf  p7

これは内閣府の統計ですが、中堅企業の場合、平成23年度に「策定を予定している(検討中を含む)」との回答が急増しています。
東日本大震災がきっかけとだ考えられます。

またその後も、平成24年7月九州北部豪雨、平成26年8月豪雨、平成28年には熊本地震、相次ぐ巨大台風と、例を見ないような大規模災害が相次いだこともあり、BCPの策定に前向きな企業が現在では多数派です。

 

BCPによる大地震からの復旧事例

 

実際に大震災の経験からBCPを策定し、次の地震でレジリエンスを発揮した企業の例があります。
2度の震災を乗り越えた企業です。

わかりやすい例としては、新潟県長岡市のスーパーマーケット経営会社のケースです。
2004年に新潟県中越地震で県内22店舗が被災、うち3店舗が閉鎖という状況に追い込まれました。

その後BCPを策定、「災害時でも開店する」を社内の共通目標としたほか、第二の物流センターを設置、また被災地において需要の高くなる商品の洗い出しをしています。

結果、2007年に再び新潟を襲った新潟県中越沖地震の際には、被災7店舗のうち、当日に4店舗、翌日に2店舗、3日後に1店舗の営業を再開、同業他社に先んじた事業再開が可能だったということです。

「災害時でも開店する」という決まりごとが、現場単位での対応や判断を可能にしたとも言えます。現場が指示待ち状態にならなかった効果は大きいでしょう。

災害時は自社の復旧もそうですが、災害によって需要の増える製品やサービスの確保、取引のある他社の支援など、通常以上の稼働能力が必要とされます。
一方で従業員も被災者となる(ライフライン断絶、電力、水不足など)ため、初動、当面の超過稼働を想定し、そこから中期的な復旧に向けた復旧というのがBCPの考え方です(図3)。

図3 BCP策定における操業の度想定(出典:「事業継続ガイドライン」内閣府)
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline03.pdf p3

しかし、超過稼働がいつまでも続くと、今度は従業員がもたなくなってしまいます。従業員には家族もありますから、目安となる初期復旧段階のラインを考えておく必要もありそうです。復旧の「速度」の想定もまた、必要な要素と言えます。

また、同じく2度の地震を経験した半導体集積回路メーカーの例があります。
この企業は2003年に震度6強の地震に見舞われた際には、工場の完全復旧に1か月を要しました。
しかしその後BCPを策定、「24時間以内に最低1つのラインを確保する」という目標を決定したほか、本震前の初期微動で停止するシステムを導入するなどして、2008年に震度5強の地震があった際には、致命的な被害を出さず、前回は1か月だった復旧時間を4日に短縮しています。

そして今回、新型コロナウイルスの流行で、早期に社員の3割に当たる約8000人に在宅勤務を命じた資生堂は、もとより「新型インフルエンザ(感染症)対策BCP」を設けています。
感染症の流行フェーズごとに行動指針を作成していて、これが今回早期決断に繋がったと考えられます。

なお、感染症の場合のBCP発動は、自然災害と少し異なる部分があります(図4)。

図4 感染症におけるBCP発動イメージ(出典:「事業継続ガイドライン」内閣府)
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline03.pdf p3

 

早い段階で「計画的停止」を始めるイメージが特徴です。
今回の資生堂の対応も、このイメージに似たものがあると言えるでしょう。

また、NTTデータは、パートナー社員の感染をいち早く公表しました。一部従業員への在宅勤務の指示など、講じる措置についても同時に発表しています。積極的な情報発信は今の時代には重要なことです。

 

予期できない災害とできる災害がある

 

災害や感染症の被害は、形こそ様々ですが、「被害を予期できるもの」と「できないもの」があります。

地震は予期できない災害であり、日頃から意識し、社内に浸透させておくことで社員ひとりひとりの意識を高めておく必要があります。社員が自主的な行動をすることで、まず自分の身の安全を図るのが最優先であることは間違いありません。

逆に、予期できない災害の場合、本当の意味で「自主的な」行動ができなければ意味がありません。
今、地震訓練を行う企業は多くあります。
しかし、実は、その多くが本当の訓練にはなっていないという実態があるのです。

なぜかというと、訓練では「地震が起きる日時」がわかっているからです。しかも、業務に影響の出ない時間帯と決まっていますし、中には「今日訓練があるからあなたはこの担当」とまで言ってしまっているケースもあります。

担当を日頃から決めておくのは重要ですが、形式的なものでは意味がありません。「取るべき行動」が決められていたとしても、有事には必ず「精神的パニック」を伴います。また、当該職員がその日休日だったらどうするのか、という話にもなります。

この点に関しては、別の形で災害発生時に備えた精神的な訓練が必要でしょう。
むしろ地震が起きる日時がわかっている訓練だけを何度行っても、形式だけでは効果に疑問が残ります。

一方で、「予期できる災害」というものがあります。
非常時に自社の社員を100%守ることは難しいかもしれません。しかし「減災」することを考えなければなりません。これを最初から放棄している企業が多く見られます。

象徴的なのは、近年相次ぐ大型台風です。これに関しては長年同様の指摘をされながらも、改善の傾向が見られません。
令和元年台風19号はその規模の巨大さが接近前から判明しており、ガラス窓に飛散防止テープを貼る必要性までもが事前に報じられ、養生テープの品薄や欠品が相次ぎました。

そして実は、死亡時の状況が判明した64人のうち3割は「移動中に」車中で亡くなったとの分析があります[1]。事前避難の必要性がわかります。

しかし、玄関に土嚢は積むのに、従業員を出勤させるという企業が少なくありません。台風の進路は前の日どころか、それより前から知らされ続けているにも関わらず、です。

早めに対応を決め、例えば事前に取引先に断りを入れておく、あるいは在宅でやることを決めておく、ということで成り立つ業種もあるのではないでしょうか。
しかも最近の雨や台風は、これまでとは被害の規模が違います。土嚢などあっさりと超えてしまう水害の様子は、台風の報道で目にした人も多いはずです。

駅には長蛇の列ができ、電車に乗るまで2時間かかる、という場所もありました。
「物理的には出勤できる」かもしれませんが、ここで考えてみてください。
降雨が小康状態になったからといって、突風に当たられたらどうするのでしょう。他人がさしている傘が飛ばされ、社員に直撃したらどうするのでしょう。
電車の中に閉じ込められ、具合が悪くなったらどうするのでしょう。

これらは「労災」になる可能性が高く、対応を間違えると多額の賠償を請求されるリスクもあります。また、「そうなるとは思わなかった」では済まず、企業にとってより深刻な事態を招くこともあるでしょう。

また現代では、台風の中を出社させる企業名がSNSですぐに広がり、「ブラック企業」のレッテルを簡単に貼られてしまいます。

 

守るべきものの順序をクリアに

 

「いつも普段通りの人数が稼働していないと安心できない」。このような文化を持つ企業もありそうです。
しかし、柔軟性のないその体質は「予期できない災害」に遭遇すると、余計なパニックに陥るでしょう。

「電車は走れているんだから大丈夫だろう」という考えは「他力本願」でしかなく、経営側にも従業員にも自主的な防災・減災行動は身につきません。どこまでが安全でどこからが危険な行動なのか、境界線を自分で見極められなくなってしまいます。

災害大国と言われる日本で、かつその規模は大きくなってきています。例えば管理職は気象や被害想定に関して定期的な講義を受ける、といった対策もBCPの一例になるでしょう。
また感染症の場合は目に見えないために、様々な情報や憶測、デマが飛び交います。こうした情報についてのリテラシーも必要とされるでしょう。

そして、BCPは更新し続けてこそ意味があります。
近年の災害では「異例の」という言葉をよく耳にします。実際、初めて見るような被害も増えています。

リスクへの備えは杞憂に終わることがあったとしても、従業員にとっては自分の身を守ってくれる会社なのだという安心感がモチベーションに繋がります。
逆に言えば、身近な従業員を守れないマネジメントが、組織や会社を守れるとは思えません。

なお、中小企業庁がチェックリストを公開していますので、参考にしてみてください。もちろん、ここにある項目が全てではありません。
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_01_3.html

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[1] 毎日新聞 2019年10月17日https://mainichi.jp/articles/20191017/k00/00m/040/346000c