2020/03/10

同一労働同一賃金とは?期待理論で考えてみる

2018年、同一労働同一賃金を含む「働き方改革関連法」が成立いたしました。大企業は2020年4月から、中小企業も2021年4月から導入される予定です。同一労働同一賃金は、正社員や非正規社員などの雇用形態に関係なく、職務に応じて給料等を同一にする制度です。
この制度の導入により事業者にとって人件費が上昇する懸念がある一方で、非正規社員の
給与上昇への期待や働きがいによるモチベーションアップが期待されています。

筆者は、海外駐在の勤務経験があり、同一労働同一賃金が当たり前の世界でビジネスを経験してきました。この記事では、同一労働同一賃金について、日本と海外の働き方観の違いをモチベーション理論(期待理論)で考えてみます。

 

1.同一労働同一賃金とは?

 

日本では、長い間、正社員と非正規社員の職務内容が同じであっても、非正規社員の給与などが低く抑えられてきたのが現実でした。同一労働・同一賃金制度は、その賃金格差を解消させるための制度です。
働き方改革関連法の成立により、パートタイム労働法が「パートタイム・有期雇用労働法」に改正され、同法に基づいて、2020年4月(大企業)より施行されます。

(1)主なポイント
① 不合理な待遇差の禁止
同じ企業内で、正社員とパートタイムなど非正規社員との間で、基本給や賞与など待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されます。しかし、合理的な説明ができる待遇差までは禁止されません。ガイドラインで、どのような待遇差が不合理に当たるか等を確認する必要があります。

【待遇の差が禁止される項目】
基本給、賞与、手当(役職手当、業務手当、通勤手当、家族手当、住宅手当、食事手当など)、福利厚生・教育訓練(福利厚生施設、慶弔休暇、病気休職など)

② 待遇に関する説明義務の強化
パートタイムなど非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができます。事業主は、パートタイム労働者等非正規社員から求められた場合には、説明をしなければなりません。

③ 行政ADR(裁判をせずに解決する手続き)の整備
事業者と非正規社員との間に争いが生じた場合、裁判を行わないで解決するために、都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続が行われます。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADRの対象となります。

(2)メリット・デメリット
① 事業者
【メリット】
・非正規社員のモチベーション向上により労働生産性の向上が期待できる
・非正規社員であっても優秀な人材を確保できる可能性が高くなる
【デメリット】
・人件費が高くなる可能性が高い
・処遇制度の見直しや説明対応など必要管理工数が増加する

② 社員
【メリット】
・給料など待遇改善によりモチベーションが改善する
・リモートワークなど多様な働き方の選択肢が広がる
【デメリット】
・適正価格への見直しにより正社員の給料がダウンする可能性がある
・人件費上昇により雇用調整(派遣止め)の可能性がある

 

2.変わりつつある日本の給与体系 職能給から職務給へ

 

同一労働同一賃金の導入以外にも、高度人材高給化など日本企業の給与体系には大きな変化が起こりつつあります。この変化は、長期雇用制度を前提とした職能給制度から、実力主義・成果主義を目指す職務給への給与体系制度の転換が背景になっています。

(1)職能給とは
職能給とは、「勤続年数が長くなるほど能力も高まる」という考え方により設計された給与体系です。高度経済成長期、労働力人口が右肩上がりの時代には、勤続年数とともに給料も上がり、日本企業の経営スタイルの根本ともいえる「長期雇用制度」が多くの日本企業で採用されていました。
職能給は、年齢とともに給料が上がっていきますので、当然、社員は将来の高給を目指して会社に残り続けます。日本型経営がもてはやされた時代には、離職防止、会社への忠誠心、持続的なノウハウの伝承などのメリットが顕在化していました。

(2) 職務給とは
職務給とは、欧米を中心に、極端に言えば日本以外の先進国で採用されている成果主義の賃金制度です。職能給では年齢や勤続年数が重視されるのに対して、職務給は、職務の難易度や役割(責任)を重視します。職務給では、勤続年数が違っても、職務の難易度や役割(責任)が同じであれば、同一の賃金が支払われます。

AIやIOTなど劇的な技術革新や急激な少子高齢化が進む中、企業内で時間をかけて仕事を遂行する能力を高める時間やコストを負担する余力は失われています。
2000年代に入りグローバルレベルの競争が加速すると、終身雇用と年功序列の雇用慣行を見直して、実力主義・成果主義の給与体系を志向する企業が増えてきています。

 

3.海外では当たり前の同一労働同一賃金 海外の経理部門を事例に

 

同一労働同一賃金は、欧米では当たり前の制度です。海外では、求人する時には、「どのような職種で、どのような能力を求めている」かが明示されていることが当たり前の世界となっています。

(1)海外の経理部門で求められる機能と職制
筆者の駐在を含む海外ビジネスの経験から、海外の経理部門で求められる機能は、戦略機能、専門機能、統制機能、業務機能です。
又、企業により細かな区分はあるものの、職制としては、マネージャー、アカウンタント、クラークの3つに大別することができます。

 ①求められる機能

機能 求められる役割
戦略機能 経営者の右腕として経営戦略・経営計画などの立案に際して、現状の分析と将来の経営環境を評価し、経営数値の作成・提案ができる能力
専門機能 会計基準対応など会計分野、資金調達・運用などの財務分野、税務当局対応や節税、税務分野など企業内で代替できない専門能力
統制機能 売上計上基準など会計ポリシーの遵守や不正会計処理の監視・防止などコンプライアンスを担う能力
業務機能 伝票入力・計算・照合や会計証憑類の整理・保管など経理業務オペレーションを担う機能

 ②職制と機能

職制 役割 戦略 専門 統制 業務
マネージャー 高度な戦略性や専門性を有し、経理部門成果に対して責任を負う
アカウンタント 学卒や公的資格などで会計スキルを有し、一定の領域に責任を負う
クラーク 一定に会計スキルを有し、定められた範囲の事務に責任を負う

(2)シンガポールでの賃金水準例
日本では、賃金水準は年齢別や入社年数で比較されることが多くなっています。しかし海外では、職制と役割(機能)で賃金水準が公開されることが一般的です。

一例としてシンガポールを挙げると、同国も他の海外諸国と同じように、転職が当たり前の文化があります。そのため賃金レンジの設定は、社内の上下感だけでなく、他の企業とのベンチマークが必要となります。他社と比較して給与が低いと転職リスクは格段に高まります。
シンガポール政府による職業別の賃金調査結果などで賃金、レンジの参考とすることができます。

【シンガポールの賃金動向(経理関連)】[1]

職制(日本語) 職制(英文) 2017(S$) 2018(S$)
経理マネージャー accounting manager 7,645 7,648
経理担当者 Accountant 4,797 4,800
事務員 General office clerk 2,203  2,225

 

4.モチベーション理論:期待理論とは?

 

期待理論は、ビクター・H・ブルームが最初に唱え、レイマン・ポーターとエドワード・ローラー3世により発展した、モチベーションが生じる過程を明らかにした理論です。

それまでのモチベーション理論は、人が行動を起こす欲求に着目した理論でしたが、期待理論は、モチベーションの生じる過程に着目した理論となっています。

(1) 期待理論とは?
ブルームの期待理論では、人が行動(努力)する動機づけは、
①その行動(努力)により報酬が得られる主観的な確率
②その行動(努力)によって得られる報酬の魅力(主観的価値)
の2つの要因により決定するとしています。
計算式では、①と②の積で表すことができます。

モチベーション=報酬を得られる主観的な確率×報酬の魅力

 期待理論では、自分の努力が報われる可能性が高く、しかもその報酬が本人にとって魅力的であればあるほど、モチベーションは高くなります。
逆に、魅力的な報酬であっても自分の努力が報われる可能性が低い場合や自分の努力が報われる可能性が高くても本人にとって魅力のない報酬であればモチベーションを高めることはできません。

(2)同一労働同一賃金(職務給)を期待理論から考える
今回の同一労働同一賃金制度を機に、海外では当たり前の、職務給をベースとした実力主義、成果主義の給与体系の導入に踏み切る企業は確実に増えていくでしょう。
社員のモチベーションを高めるためにも「社員の努力次第で魅力ある報酬が報われる仕組み」を作り出す必要があります。

一方、正社員の立場や中高年者として日本型経営の恩恵を受けた社員にとっては、モチベーションが下がる可能性もありますので、併せて必要な対策を講じなければなりません。

 ①モチベーションが上がる
・非正規社員
 正規社員と同等の報酬を受け取ることができる
・自己啓発に努める社員
 資格を取得するなど労働市場価値を高め、レンジの高い報酬を受け取ることができる
・実力主義の競争を好む社員
 業績(報酬)に見合った報酬を受け取ることができる

 ②モチベーションが下がる
・自己啓発が苦手な社員
 年齢では次のレンジに進まないため、報酬に限界がある
・技術承継や後継者教育に熱意のある社員
 社員の流動性が高くなるため、希望する報酬を会社が設定しない可能性がある
・一時的に身体等の不安がある社員
 行動(努力)が難しいため、報酬が下がる可能性が高い
・ジェネラリストを志向する社員
 スペシャリストと比べ労働市場価値が低く、期待する報酬が望めない

 

5.まとめ

 

筆者は、同一労働・同一賃金に限って言えば、同一レンジの制度問題と考えています。正社員・非正規社員間で給与などの違いがあっても、その差を合理的な理由(例えばワークスタイル)でそれぞれのモチベーションを維持することができる制度設計を行えば、解決できる問題です。
同一労働・同一賃金の背景は欧米流の職務給の考え方です。次の段階で問われるのは、異なるレンジ間の給与体系を含めた働き方です。
日本では、社員は簡単に辞めることができませんし、会社も社員を辞めさせることができません。ここが日本以外の国と大きく違うことです。

今回、実力主義、成果主義の前提となる職務給が、同一労働同一賃金の制度として日本に導入されました。この影響が、今後、経済状況や労働市場などにどのように発生するのか注視したいと思います。

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[1]出所 三菱 UFJ 銀行 「シンガポールの賃金動向(2019 年 7 月)」
https://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20190709.pdf