2018/08/31

高度プロフェッショナル制度(応用編)_歴史と法律

高度プロフェッショナル制度(基礎編)はこちらから。

働くことは、日々の糧を得る以上に人間にとって、帰属の欲求と他者から認められる、社会的にも必要とされるものです。

政府の「働き方改革」の柱の法案の一つにもなっている「高度プロフェッショナル制度」をマネジメントとの関わりで考えます。一つは企業や組織全体のマネジメント。もう一つは、働く側の個のマネジメント~セルフ・マネジメントです。この論争の多くが、「外」からの枠組み論議であるのに対して、当事者の働く側の「内」からの議論が不足気味です。

使用者側も労働組合も組織代表としての、面子がありますので、ともすると形式論になりがちです。この二つの目だけで見ていると見えないものが出てきます。見逃せないのがフリーランスなどの労働基準法対象外の「労働者」層の存在です。

「第三の目」として労働基準法対象外の筆者も、その観点から切り込んでみたいと思います。

高度プロフェッショナル制度とは?

高度な専門職を、労働時間規制の対象から除外することです。
構成は、次の5点から成り立っています。

(1)対象業務
「高度の専門的知識等を必要とする」とともに「従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる」 という性質の範囲内で、具体的には省令で規定

(2)対象労働者
省令で規定される額(1,075万円を参考に検討)以上である労働者

(3)健康管理時間に基づく健康確保措置等
健康管理時間が一定時間を超えた者に対して、医師による面接指導を実施

(4)制度導入手続
本人の同意、導入事業所に委員会の設置

(5)法的効果
時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の規定を適用除外
詳細は、政府関連機関のホームページ(「労働基準法等の一部を改正する法律案」について 厚生労働省)を参照してください。

参照:「「労働基準法等の一部を改正する法律案」について」(厚生労働省)

 

ポイントは、「働いた時間ではなく、成果で賃金を払う」(安倍首相)といいながら一切規定がなく、労働時間規制の撤廃と残業代の支払い免除だけが明記されていることです。

【労働基準法の歴史】

労働基準法が制定された歴史はアメリカの労働運動の記念碑的な出来事を忘れてはならないでしょう。

“May Day”です。

メーデーの起源は、1886年5月1日、長時間労働で苦しむアメリカの労働者が8時間労働を要求して約35万人がストライキに立ち上がったことです。

参照:「メーデー」(wikipedia)

日本での労働基準法は、戦後日本の占領軍(GHQ:General Headquarters)による改革の一環として制定された法律です。注目しなければならないのは、労働者の保護のための施策ではなく、戦前の日本の侵略主義的性質は、不当な国際競争力を生み出すソーシャル・ダンピングが一因であるとして、軍国主義の復活を防ぎアメリカの国際的な優位性を築くために労働環境にメスを入れたことです。

そのキーストーンとなるのが「労働時間の短縮」だったのです。

2017年の日本の産業構造は第三次産業が全体の72.8%で、第一次産業(3.4%)、第二次産業(23.8%)の構成比です。労働基準法の制定された時代(最初の統計1951年、31.4%、46.1%、22.6%)と様相が異なります(総務省 「労働力調査」)。この第三次産業に属する高度プロフェッショナルは「知識労働者」(P.F.ドラッカー)であり、労働基準法ができた当時の労働者と質的に大きな変化があります。

【ホワイトカラーエグゼンプション(white collar exemption)】

アメリカが発祥となっている「ホワイトカラーエグゼンプション」ですが、アメリカではホワイトカラー、ブルーカラーの差別が禁止されているので、そもそも「ホワイトカラーエグゼンプション」の呼称自体が政府の公的表現に出てくるのはおかしな話ですが、この制度のアメリカ版で免除されるのは主に割増賃金の支払い義務についてです。日本版の「ホワイトカラーエグゼンプション」は、割増賃金だけでなく労働時間に関する規制を含めて免除しようという制度になっています。どうも我田引水的なところがあります。

 

高度プロフェッショナル制度のメリットとデメリットの狭間

 

【論議の「溝」の存在】

論議の目標が共有化されていないことに本質的な問題が隠されています。
(野党)過労死防止
(政府)高度な専門職を、労働時間規制の対象から除外する
「労働時間規制対象除外=過労死」も短絡的ならば、「高度専門職の活躍=労働生産性向上」も短絡的です。

特に「働き方改革」で問題になっている国際比較の労働生産性向上の算出式は、

労働生産性=GDP/就業者数または(就業者数×労働時間)

となっており、労働時間が短縮されれば労働生産性が上がるようになっています。この分母の労働時間の数字を小さくすれば一気に労働生産性があがります。GDPを伸ばすより簡単です。法律の改定をすれば済むわけですから。

これは見かけだけの問題で、労働の「質」の問題が詐称されています。

OECDの国際順位で日本は20位で、イタリア15位、スペイン17位(日本生産性本部)より低いのです。日本人の方が労働生産性が低いとはどう考えても合点がいかない方が多いでしょう。

【なぜ、死ぬまで働くのか?】

「労働時間規制対象除外=過労死」も一部マスコミの過度な報道の側面からの影響も拭えません。

なぜ死ぬまで働いてしまうのかと言う本質的な問題を隠してしまっています。

過労死のニュースが報道されるたびに「そこまで無理する前に、なぜ休まなかったのか」「まわりは止めなかったのか」「他の方法はなかったのか」と思うでしょう。

それが「普通」です。

どこかのスポーツ選手の危険行為やオウム真理教の事件と同じように、一種の集団催眠的な状況に置かれてしまうと人間は正常な判断を失います。戦前の日本やドイツもそうでした。

単純に労働時間規制をしても問題解決にはなりません。休めない状況を作り出す「クラッシャー上司」の存在もあり、組織体質から来る「村社会」特有の悪しき弊害が存在するからです。

参照:「なぜ死ぬまで働くのか…「過労死白書」のウラ」(読売新聞社)

【フリーランスの存在】

フリーランス(個人事業主もしくは個人企業法人)は、そもそもこの議論の蚊帳の外です。労働基準法の適用も受けません。

現在の日本のフリーランスの人口は約1,200万人、労働市場に占める割合は、経済規模が20兆円(日本総給与支払額の10%)を突破しています。(「フリーランス実態調査2018年版」ランサーズ株式会社)

このフリーランスの存在と高度プロフェッショナル制度の導入は、従来型の日本の雇用制度や働き方そのものを覆す可能性があります。

彼らの報酬は自由市場で決まってきますから、企業は優秀な人材の引き抜きを防ぐため、年収を上げざるを得ません。

技術やクリエイティビティで収入が決まるとなれば、学歴や年齢、性別は関係なくなり、勤続年数も意味がなくなります。つまり年功序列の賃金体系が崩れることになるわけです。

マネジメントの質が変わる高度プロフェッショナル制度

アメリカの西部劇の舞台になるような、奴隷制の時代でも奴隷を死ぬまでは働かせませんでした。それは奴隷は貴重な商品であり、死なせてしまっては元も子もなかったからです。

日本の江戸時代でも、大名は「百姓は殺さぬように生かさぬように」したと言われています。

古典的なマネジメントスタイルです。

現在は、さすがにこのような稚拙なマネジメントはありませんが、高度プロフェッショナルの人材には「スレスレ」まで、働かせて利益をあげてもらいたいと言う経営者も存在するでしょう。

しかしながら、よく考えてみればわかりそうなことなのですが、高度プロフェッショナルは非常に知的レベルも高く判断能力に優れている(そうでなければ「高度プロフェッショナル」にはなれませんね)ので、いつまでも「スレスレ」を容認するはずはあり得ません。

他社に移るか起業して独立してしまいます。彼らは有能な「知識労働者」ですから。

“企業、政府機関、NPO(非営利組織)のいずれであれ、マネジメントの定義は一つしかありえない。それは、人をして何かを生みださせることである。今後、組織の競争力はこの一点にかかっている。もはや経済学の言う生産資源、すなわち土地、労働、資本からの競争優位は得られない。(中略)

今や唯一の意味ある競争力要因は、知識労働の生産性である。その知識労働の生産性を左右するものが知識労働者である。”

(引用:『明日を支配するもの』P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社、1999年

 

まとめ

企業や事業所に「高度プロフェッショナル制度」が導入されようが、されまいが、マネジメントもセルフ・マネジメントも変革されなければなりません。法律の実質的運用が始まるのには何ごとにも時間がかかります。

多くの国民に影響があるのが、職業別年収ランキングの1位2位の仕事です。この2業種とも直接、人命に関わる職業で本人の裁量や組織マネジメントに任せられない法的拘束力を持って対処しなければならないものです。

それは「医師」と「パイロット」です。

「高度プロフェッショナル制度」の導入のよって、法の上限まで働いた「医師」や「パイロット」の起こす事故のニュースは誰も読みたくはないでしょう。

現在平均年収で、1,000万円を超える職業は「医師」(1,232.7万円)「航空操縦士」(1,192.1万円)「大学教授」(1,051.3万円)「公認会計士、税理士」(1,042.5万円)「弁護士」(1,029.0万円)です。(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2017年版データ)

人命や子ども達の将来に関わる高度プロフェッショナルの仕事の「質」が担保される社会システムこそが国民全てが望む施策でしょう。同時に、企業倫理や働く側のセルフ・マネジメントも強く求められる時代になります。

最終的に知識労働者は「自己実現の高次な欲求」(マズローの欲求の五段階)を求め、創造的で能力を開花できるワークスタイルに身を浸すことに喜びを感じるでしょう。

そのために「高度プロフェッショナル制度」に意味があるのであれば、高度プロフェッショナル(知識労働者)は、誰も反対しないのです。

 

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