2017/12/18

背中を見せて部下を育てる。今昔の理論5つを紹介

能力はあるものの、まだまだ経験的には未熟な部下。今後のためにも自分の背中を見て育って欲しい。だがどうにも思い通りにいかない。そんな風に悩んではいませんか?

部下の育成について、マネジメントの方々に役立つ考え方を紹介します。

 

「みんなでみんなを育て合う」関係を作るマネジメント

最初に紹介するのは、東京大学の中原淳教授が提唱する「職場学習論」です。この理論は社会人が職場で過ごす中で学習し、行動や認知を変化させるという前提のもと、職場での他者との関わりによって人がどのように学んでいくのかを解明した人材育成方法論です。

職場学習論でキーワードとなるのが、3種類の支援と3種類のアクター(学びのタネ)です。3種類の支援とは業務支援、内省支援、精神支援を、3種類のアクターとは上司、上位者・先輩、同僚・同期を指します。

支援の種類 概要
業務支援 従来のOJTにおける、上司から部下に対する働きかけ。
内省支援 実際の業務のやり方や行動のあり方などについて、客観的なフィードバックを与えたり、振り返りをさせたりする。
精神支援 業務に対する情緒的なフィードバック。励ましたり、リラックスさせたりする。

中原教授の研究によれば、これらのうち個人の成長に貢献したのは以下のような支援でした。

支援の種類 支援の主体
業務支援 同僚・同期
内省支援 上司、上位者・先輩、同僚・同期
精神支援 上司

このように考えると、上司は部下との単なる1対1の関係に終始するのではなく、3種類のアクターと関わることができる学習のネットワークを整える役割も担っているといえます。したがって部下を含めた部下の上位者・先輩や同僚・同期ときっちりコミュニケーションをとっていく必要があるでしょう。「自分の背中を見せる」ことに加えて、広い視野でコミュニケーションするよう心がけることが必要、と言えるのかも知れません。

しかしながら、実態は上司の支援は業務支援中心になっていることが多くなっています。その一方で、成長につながる内省支援が足りていないケースも多いのではないでしょうか。部下を成長させるには、内省支援に力を入れるため、客観的なフィードバックを行い、自分で振り返りをさせることを心がける必要があると言えるのかも知れません。

用語集リンク:職場学習論

「自分の殻を破る」きっかけを与えるマネジメント

続いて紹介するのは、国際経営開発研究所(IMD)のシュロモ・ベンハー教授が提唱する「企業内学習」です。この理論ではインプットよりアウトプットを、トレーニングよりラーニングを重視します。アウトプットとは良い業績や良い数字を生み出すための行動変化を指し、ラーニングとは行動変化を促す何かを提供することを指します。アウトプットは「自分の殻を破る」こと、ラーニングはそのきっかけを与えることと言い換えることができます。

従来型のインプットとトレーニングは、主に知識の習得を目指すものでした。またOJTはラーニングに近い教育方法ではありますが、得てして「背中を見せる」型の教育になってしまう場合も多く、より明確な指標を設定する企業内学習とは区別されます。ベンハー教授は、例えば顧客対応の業務に責任を持つ社員であれば「顧客維持率」「顧客満足度」などの指標を設定し、ラーニング実施前のパフォーマンスと、実施後のパフォーマンスを比較するなどの方法を推奨しています。

ベンハー教授は「多くの企業は研修の場とメニューを提供していますが、参加者の行動の変化を確認することが出来ていない」と語ります。その状況への対応策として、企業内学習の考え方に基いて、自社の現場で実際に高い業績を上げている人が研修プログラムに関わる、などの方法を勧めています。

用語集リンク:企業内学習入門

マネジメントがやるべきは「明確な目標設定」

ここまで見てきた考え方は、部下だけでなく周りの方々との関係性を考慮したり、大きな労力がかかるものに感じられるかも知れません。しかし、実は「背中を見せて部下を育てる」ことは上司がやるべきことではない、と考えることもできます。すなわち上司がやるべきとは「明確な目標設定」だけである、という考え方です。

部下にとっては、いくら上司にやってみせてもらったとしても、他人の経験は所詮他人のもので、自分の経験ではありません。成長とはすなわち「できなかったことができるようになること」。自分のものとして経験しない限りできるようにはならないので、成長にもつながりません。したがって、やってみせるにしても期間を設定し、できるだけ早く本人にやらせてみる必要があるのです。

部下が実際にやってみると、たいていは完璧に程遠い結果が出るはずです。このときに重要になるのが「明確な目標設定」です。このとき、目標は理想的な結果に対して、どれだけの不足分があるのかを把握するための基準となります。部下はこの目標と今の結果の間にある不足分を把握し、その不足分を埋めるためにやり方や行動を変えていくことになります。

逆に言えば目標が曖昧であるほど、部下が把握できる不足分も曖昧になります。その場合は成長の速度が鈍化するか、ストップしてしまうこともあり得ます。「背中を見せる」では部下は何が正解か分からず、迷いが生じます。したがって設定する目標は、部下と上司の間で解釈がズレない明確なものにする必要があるのです。

この考え方は「識学」というマネジメントに対する知識体系の中で整理されています。

参考リンク:『伸びる会社は「これ」をやらない! 』

背中を見せて部下を育てる 5つの理論

「背中を見せて部下を育てる」とは昔からよく言ったもので、上司となった瞬間から部下の視線を一身に集め、良くも悪くも部下の手本となります。特に新卒者を扱う上司は責任重大です。新卒者は最初の上司の影響を最も大きく受けるといわれています。[1]

今も昔も部下への影響が計り知れない「上司の背中」について、今昔の理論5つをご紹介します。

 

部下育てに苦心している姿は今も昔も一緒

「新入社員の常識は自分の常識と違うから、どこまで伝えたらいいかわからない」「新入社員をどう扱っていったら良いのかよくわからない」と部下育てに苦心している上司の姿は、今も昔も変わりません。その姿はまるで子育てをしているお母さんのようです。実は部下育ては子育てと似ているのですが、その反面決定的な違いがあります。

 

部下育てと子育ては似て非なる

「お前は本当にダメだ」「そんなこともわからないなんて頭がおかしいんじゃないか?」と子供を叱る親はいません。もしそのような親がいたとしたら毒親です。同様に、そのようなことを口に出して部下を叱責する上司はパワハラ上司で問題になります。子供や部下を叱る時は「その過ちについて叱る」、そして「チャレンジした時はその過程を褒める」というのは共通していますよね。[2]しかし部下育てと子育てには「評価の有無」という点が異なります。自分の子供をよその子と比較して評価することはありませんが、部下は他社との比較や能力評価が必要となります。上司の意図を組んで仕事をしたことや、営業成績が良かったなどの「結果」を重視する傾向にあるのです。[3]

 

どの様な部下が理想か

では「結果を出せる部下」が理想の部下なのでしょうか。もちろんエース級に、コンスタントに結果を出せる部下は重宝されます。結果を出せるということは上司の意図を組むことができたり、先回りして仕事をやってくれたりするものです。それに加えて「常識があり礼儀正しい」という部下であれば、典型的な「理想の部下」といってよいでしょう。[4]

さらに、コミュニケーション能力の高さや、逆境に負けない、成長意欲がある、上司を信頼しているなど、上司によって様々な理想があるようです。[5]

 

部下の成長を促す今昔の理論5つ

そんな理想の部下に少しでも近づいてもらいたいと思う上司たちは、あの手この手で部下の成長を促すよう努力を重ねなくてはなりません。「今の新入社員はけしからん」などといっている上司も、新人時代には上司から同じことを言われていたでしょう。今でも十分に使える、今昔の部下の成長を促す理論を5つご紹介します。

 

①仕事は見て盗め

仕事を始めたときに「何かあったら聞いて」や「仕事は見て盗め」などといわれたことはないでしょうか。昔から職人気質の職業では、上司の背中から自ら学び取る姿勢が重要とされてきました。現代は受け身の新人も多く「上司が教えてくれないからわからない」というぼやきも聞こえてくる一方、「過干渉」という問題も発生しています。ある程度基本的な仕事ができるようになったら、「仕事をしているできる上司を観察する」ことによって、聞いても教えてもらえないような仕事のコツや、上司自身もわかっていないような秘訣が見えてくることがあります。現在でも賛否両論あるのですが、社会人としての基本を端的に述べた言葉であり、理論です。[6]

 

②話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず

連合艦隊司令長官、山本五十六といえば「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という名言はよく知られています。しかしこの名言は詩になっていて、続きがあることをご存知でしょうか。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

 

 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

[7]

山本五十六は大日本帝国海軍に所属していましたが、詩の2行目「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」という点は、まさに現代企業における部下育てにピッタリの名言といえます。しっかりと部下の話を聞きながらジャッジし、時には失敗させながらも仕事を任せていくという理論は、部下の自主性を重んじながらも上司判断をなおざりにしないという、上司と部下の本来の姿を思い出させてくれる昔ながらの理論です。

 

③SL理論

SL(Situational Leadership)理論は、部下を育てる際にはリーダーの力量やレベルではなく、部下のレベルや習熟度に合わせて、4つの種類のリーダーシップを発揮するというものです。[8]1977年に発表されたこの理論は、古いとも新しいともいえます。

まず上司の行動を「指示的行動」「援助的行動」という2つに分けて考えます。この割合を部下の習熟度によって以下のように変えていきます。

 

低      指示的行動     高

参加(援助)型 説得(コーチ)型
委任型 教示(指示)型

 

経験がなく手厚い指示が必要な新入社員には「教示(指示)型」の上司が必要です。会社のビジョンや仕事の目的についてはまだまだ理解ができていませんが、上司からの指示は何とかこなせるというレベルです。少し部下が成長してくると「説得(コーチ)型」の上司が有効です。仕事に対する意欲が高まり、新入社員の時よりも業務に対する意欲や理解が深まっています。すべてを任せることは難しいのですが、ビジョン共有や疑問点を共有し解決していく必要があります。「参加(援助)型」では能力やスキルは十分に育っているのですが意欲が低下してきた社員に有効です。部下を励ましつつ、「決断をする」という責任感への不安を少しでも和らげることに注力するのです。最後に「委任型」と呼ばれる上司です。社員の仕事に対する意欲が高く、さらに能力やスキルも十分な場合です。上司の役割は社員の応援と、業務工程のモニターです。すべてを任せるには早いので任せっきりにすることは避けたいのですが、適宜チェックを入れながら仕事を任せるには十分です。[9][10]

具体的な例を述べると、他社との取引において問題が起こった際に「教示(指示)型」のレベルであれば上司が部下の代わりに謝る、「説得(コーチ)型」であれば上司が謝罪に同行しつつも部下の対応を認める、「参加(援助)型」になると謝罪に同行せず事前におこった問題と対応について部下に謝罪前に報告させる、「委任型」であれば謝罪内容や対応を事後報告させるという具合です。[11]「社員に平等に」というのは理想ですが、社員の成長を促すには新入社員と同じように接していてはいけません。「部下のレベルに合わせて指導する」というSL理論は、近年の部下育成理論に大きな影響を与えています。

 

④サーバントリーダーシップ

「まず相手に奉仕し、その後相手を導く」という考えの元に生まれた「支援型リーダーシップ」です。「真のリーダーはフォロワー(部下)に信頼されており、まず人々(部下)に奉仕することが先決である」と提言[12]し、リーダーシップを発揮する前に部下の信頼を勝ち取るための行動が必要であると述べました。「サーバント」というのは「召使」「従者」という意味です。従者といっても部下の言いなりになるわけではありません。部下が仕事をしやすいように立ち回り成長を支え、気づきを促す役割を果たすという部下育成の古くからの考え方です。

 

⑤スモールステップ理論

「部下に早く一人前になってもらいたい」というのは全ての上司の願いでもあるでしょう。しかしながら、新入社員に一足飛びに難しい仕事を与えても、はやく一人前になれるとは限りません。1つの仕事を任せるときに、部下のレベルに合わせて小さなステップに分けて教えていくという理論が、スモールステップ理論です。1つの課題を小さなステップに分けて与えることで、部下の達成感や満足度を維持できるのが良い点です。[13]

例えば頻繁に遅刻をしてしまう部下がいる場合「遅刻するな!社会人の常識だぞ!」というのは簡単です。しかしスモールステップ理論から考えると、まず「なぜ遅刻するか」を考えることになります。いつもギリギリ出社の部下にも理由があるはずです。ヒアリングをしつつ遅刻の理由を「始業開始時間前に来る意義が分からない」というのであれば、「始業時間の10分前に始業ミーティングを行う」とすれば始業ミーティングに遅れることはあっても始業開始時間に遅れることは少なくなってきます。

 

部下の育成を進めるために必要なこと

どんなに上司が一生懸命部下を育成しようとしていても、部下がついてこなければ何の意味もありません。部下が上司を手本に「成長したい」と思うようになるには、上司の人間力が必要です。

頭の切れる部下であればなおさら、人の手柄を自分の手柄にしてしまうような上司のために頑張ろうという部下はいません。たとえ仕事ができなくても人間として尊敬できる上司のためであれば頑張って成長したいという部下は多いのです。

 

コーチングとアドバイス

部下を教育するときに「コーチング」「アドバイス」が重要なカギとなります。コーチングとは対話をしながら部下の独自性ややる気を引き出していくもので、対話の中でアドバイスができる上司は「部下を育てられる上司」です。

ある程度能力やスキルがある人に対して非常に有効で、「あなたはどうしたいか」「あなたはどう思うか」と問いかけることにより、部下が自ら考える力を養うことができるのです。[14]

また部下が望んだ場合に的確なアドバイスができる上司は、頼りがいのある上司といえるでしょう。

 

人間力を養い褒められたい上司になる

あなたは部下から見て「褒められたい上司」といえるでしょうか。人間力の有無は、人と人とのつながりが大切な企業生活において重要なポイントです。普段感情的に怒りをぶちまけたり、人格を否定したりするような上司に褒められてもうれしくありませんよね。[15]

実は部下の育成を行うと、上司自身の人間力が養われるのです。部下を育成しようとすると、なかなかこちらの意図を理解してもらえなかったり、時間がかかったりして苦労することが多いでしょう。そこで傾聴や忍耐力が必要となってきます。[16]人間として重みのある上司は部下の目標にもなりますし、同時に褒められてうれしいと感じるものです。

 

まとめ

「部下を育てる」ということは非常に労力と時間がかかるものです。紹介した5つの理論の中でも新しい理論は「分析要素」が大きく、明日にでも自分の部下教育に導入できそうなものが多いといえます。

一方昔の部下育て理論は部下をどのように扱うかという「行動規範要素」が大きいのですが、古くから参考にされているだけに重みがあります。

「背中を見せて部下を育てる」とはよく言ったもので、人間的魅力にあふれた上司の背中は、発展途上の部下にとって大きな目標となることは間違いないでしょう。

 

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参照

[1]https://www.works-i.com/pdf/100601_WR05_07.pdf
[2]https://www.businessinsider.jp/post-178599
[3]https://ameblo.jp/edgeomura/entry-12087056219.html
[4]https://careerpark.jp/3017
[5]https://www.j-cast.com/kaisha/2014/11/26221714.html?p=all
[6]https://blogos.com/article/199318/
[7]https://www.compass-point.jp/kakugen/4676/
[8]https://careerpark.jp/64827
[9]https://bizhint.jp/keyword/72181
[10]http://www.earthship-c.com/leadership/situational-leadership-theory.html
[11]https://careerpark.jp/64827
[12]https://bizhint.jp/keyword/14197
[13]https://cyber-synapse.com/business-knowledge/personnel-training/learning-theory/small-steps-personnel-training.html
[14]https://coach.co.jp/whatscoaching/20170609.html
[15]https://www.mag2.com/p/news/122351
[16]http://www.maruwanet.co.jp/tori/6318/