2018/11/12

マネジメント層が「高度プロフェッショナル制度」を活用する方法とは?

2018年6月に成立した「働き方改革法」。この法律は政府主導で進めている働き方改革を、さらに推し進めるためのものです。ここでは働き方改革法のうち、労働基準法を改正する「高度プロフェッショナル制度」にフォーカスを当てましょう。内容やメリット、デメリットを解説し、この制度をマネジメント層がどのように活用するべきかを提案します。

 

「高度プロフェッショナル制度」のメリットとデメリット

 

高度プロフェッショナル制度とは?

特定高度専門業務・成果型労働制(通称「高度プロフェッショナル労働制」)は、会社側(使用者)が特定の業務に従事する一定の年収(少なくとも1,000万円以上)の労働者に対して残業代や休日手当・深夜手当を支払う義務を負わない、という制度です。もちろん無条件で残業代などの支払い義務がなくなるわけではありません。会社側が労働者にこの制度を適用するためには、以下の条件を満たす必要があります。

 

1.  労使間で交わされる書面などによる合意に基づき、職務の内容が明確に決められている。

2. 会社側と労働者で構成される「労使委員会」の4/5以上の多数決議を得る。

3. 行政官庁に届け出る。

4. 本人の同意を得る。

5. 対象労働者が事業所にいた時間を会社側が客観的に把握できる措置をとる。

6. 年間104日以上、4週間で4日以上の休日を与える。

7. 有給休暇の付与、定期健康診断の実施などの措置をとる。

8. 次の4つのうちいずれかを1の書類や就業規則で定めている。

・ 2週間以上連続で休暇を取得させる。

・ 臨時の健康診断を実施する。

・ 終業から翌日の始業までの間に一定のインターバルを設ける。

・ 対象労働者が会社にいる時間に上限を設ける。

※働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱より作成[1] 

 

このような内容で制度を運用する想定ですが、現時点では制度が法律として成立しただけで、細かい部分は決まっていません。

 

例えば法律で定めている「特定の業務」の定義は「高度の専門的知識を必要とする等の業務」とされ、具体的には証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントらを想定しています。
しかし具体的な業務内容は明文化しておらず、労使双方が参加する国の労働政策審議会でこれから決められることになっています。

 

また年収要件についても、法律案要綱では「厚生労働省が定める額であること」としただけで、具体的な年収は決まっていません。

 

「厚生労働省が定める額」は、同要綱の中で契約上の年収が厚生労働省の定める「基準年間平均給与額」の3倍を「相当程度上回る金額」としていますが、この「相当程度上回る金額」についての定めもありません。

 

さらには「労使間で交わされる書面」に盛り込む内容についても、具体的には決まっていません。

 

つまり、高度プロフェッショナル制度はこれから運用方法が決まる制度なのです。制度が吉と出るか凶と出るかも、今後の動向で大きく変わります。以下ではこうした状況も踏まえつつ、高度プロフェッショナル制度のメリットとデメリットについて解説します。

 

高度プロフェッショナル制度のメリットは「新しい働き方」

高度プロフェッショナル制度のメリットは「新しい働き方」の推進です。これは労使双方にとってのメリットと考えることができます。

 

生産性の高い働き方

公益財団法人日本生産性本部の2017年版の調査「労働生産性の国際比較2017年度版」によれば、日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟国35ヵ国中20位、1人当たり労働生産性は同21位と低い水準です。[2]

 

高度プロフェッショナル制度は生産性を引き上げる効果があるとされています。というのも、制度が適用されれば残業代が支払われなくなるため、労働者側は「いかに就業時間内に成果を出すか」を追求するようになります。すると労働生産性は改善され、労働者からすれば「残業をせずに早く帰れる」、会社側からすれば「無駄な残業代を支払わなくて済む」というメリットが生まれるわけです。

 

こうした働き方を制度面から後押しするのが、高度プロフェッショナル制度の役割の一つと言えるでしょう。

 

会社に縛られない、自由な働き方

高度プロフェッショナル制度の適用を受けた労働者が生産性を上げ、労使間で「成果さえ出せば会社に8時間いる必要はない」という取り決めがあれば、「会社にしばられない、自由な働き方」を実現することも可能です。

 

こうした働き方の実践者は多くあります。クラウドソーシング事業を展開するランサーズの「フリーランス実態調査 2018年版」によれば、副業・兼業や複業(パラレルワーク)を含む広義のフリーランスは、現在日本で1,119万人にも上り、副業フリーランスだけでも744万人に達しているといいます。[3]これは日本で「会社にしばられない、自由な働き方」が一般化しつつあるという根拠となるでしょう。

 

しかし会社側からすれば、「会社に縛られない」というのはデメリットでもあります。従業員が会社での仕事もそこそこに副業に精を出したり、副業の影響でパフォーマンスが下がったりする可能性があるからです。高度プロフェッショナル制度はこうした会社側の不安をフォローする制度になり得ます。なぜなら労使間で対象労働者が出すべき成果を決めておき、それが達成できなければ副業を禁止することができるからです。

 

この点から、高度プロフェッショナル制度は労使双方が安心して「会社に縛られない、自由な働き方」を実現する後押しになるのです。

 

高度プロフェッショナル制度のデメリットは「労働条件の悪化リスク」

一方で、高度プロフェッショナル制度には労働条件が悪化するリスクがあります。これについては労働者側のデメリットとして取り上げられることが多いですが、考え方によっては会社側のデメリットにもなるでしょう。

 

「働かせ放題」になるリスク

労働条件の悪化リスクを端的に表現すれば「働かせ放題」になるということです。現時点では「生産性の高い働き方」も「会社に縛られない、自由な働き方」の定義が制度で明文化されていません。決まっているのは対象となる業務が限定されていることと、年収要件があるということ、そして前述した8つの条件を満たしていることだけです。しかもこれらを満たしていれば、残業代も休日・深夜手当も必要ありません。したがって今後の動向次第では「働かせ放題」が横行する可能性も十分にあるのです。

 

業務・年収要件の拡大の可能性も

また前述した通り、高度プロフェッショナル制度の対象となる業務、年収要件は具体的に決まっていません。今後制度が拡大されて、年収400〜500万円程度のサービス業に従事する労働者にも高度プロフェッショナル制度が適用される可能性もあります。[4]

 

現時点で想定されている専門的な業務に当たる人であれば、今後企業側とも交渉する余地があるでしょう。制度の適用には本人の同意が必須ですから、同意せずに身を守ることも一つ手段です。
しかし転職や独立へのハードルが高い業務を行う人に制度が適用されれば、「同意しない」という選択肢をとりづらくなります。確かに制度上は「同意しなかったからといって解雇その他の不利益な取扱いをしてはいけない」とされていますが、このルールにも明確な基準はなく、労働者側が企業側からの嫌がらせ等を恐れて同意してしまう可能性があるからです。
こうした点から、高度プロフェッショナル制度が労働者を使いつぶすための制度になる危険性も十分あるのです。

 

考えなしに制度を適用すると会社側にもデメリットが生じる

しかし制度の濫用が横行すると、逆に会社側も高度プロフェッショナル制度を適用しづらくなります。

 

なぜなら労働者側のメリットを考慮して制度を適用しなければ、「あの会社は高度プロフェッショナル制度を適用して、労働者を使いつぶしている」と評価をされるからです。そうなれば優秀な人材を採用できなくなり、業績は悪化するでしょう。2018年現在のように多くの企業が慢性的な人手不足に悩まされている売り手市場であればなおさらです。

 

このように考えると、高度プロフェッショナル制度の適切な運用は、労使双方にとって重要だということが分かります。

 

高度プロフェッショナル制度を生かしたマネジメントのために

高度プロフェッショナル制度の運用ルールについては国の決定を待つほかありませんが、現場レベルでこの制度をどのように生かすかを考えることはできます。以下ではマネジメントが高度プロフェッショナル制度を生かすための考え方を解説します。

 

高度プロフェッショナル制度のカギは「成果の基準」

高度プロフェッショナル制度を活用して労使双方にメリットのある「新しい働き方」を実現するためには、まず対象となる労働者一人ひとりの「成果の基準」を設定しなければなりません。成果の基準が明確になってこそ、労働者は「早く仕事を終わらせて帰ろう」という気にもなりますし、現場のマネジメントも「ちゃんと仕事を終わらせてから帰っているな」と評価を下せるようになるからです。「どこまで会社の仕事をしていれば問題ないか」が明確になれば、「副業にかまけて会社の仕事をおろそかにしていないかどうか」を判断できます。

 

例えば「今月は現在進行中の研究プロジェクトの進捗度を15%にする」を成果の基準とすれば、日々の仕事の量もおのずと決まってきます。そうなれば労使がともに会社の仕事をこなしているかを判断できる、というわけです。

 

一方で成果の基準が「今月は現在進行中の研究プロジェクトに全力を尽くす」だったり、「研究プロジェクトのうち15%」の内容があやふやだったりすれば、労働者は「仕事が終わった」と判断していても、マネジメントが「まだ終わっていない」と評価すれば、労働者は際限なく会社に拘束されます。成果の基準があやふやになると、高度プロフェッショナル制度が抱えるリスクが表面化するのです。

 

したがってこの制度を運用するマネジメント側は、成果の基準を明確にして労使双方の「成果」の定義を明確にし、労使で認識を合わせる必要があります。

 

明確な成果の基準は「期限」と「数値」で作る

明確な成果の基準は、「期限」と「数値」によって作られます。例えば先ほどの「今月は現在進行中の研究プロジェクトの進捗を15%にする」には、「今月」という期限と「15%」という数値が盛り込まれています。これが「現在進行中の研究プロジェクトを進める」にすると、あっという間に何が「成果」になるのか分からなくなります。

 

「期限が決められない仕事や、数値化できない仕事もある」と言いたいマネジメント層の人もいるでしょう。しかし一見、期限設定や数値化が難しい仕事でも、やり方次第で成果の基準は明確にできます。現時点で期限が決められない仕事があるなら、その期限を決める期限を設定しましょう。直接売上や利益にならないような仕事も、やるべき業務をリスト化するなどして、それらを達成度や進捗率として数値化しましょう。成果の基準が明確化されれば、高度プロフェッショナル制度は正しく運用できることでしょう。

 

やってはいけないのは、「頑張り」や「モチベーション」で評価することです。マネジメントは「彼は高いモチベーションを持って頑張っている。君は数字を残しているが、頑張りやモチベーションが足りない。だから帰らずに働きなさい」のような評価を下してはいけません。

 

「頑張り」「モチベーション」による評価は、マネジメント側の主観でしかないからです。評価に主観をはさめば、労使双方が「成果」に関する認識を一致させるのはほとんど不可能です。結果、高度プロフェッショナル制度のデメリットが表面化するのです。

 

徹底して「期限」と「数値」によって成果の基準を明確化することが大事です。高度プロフェッショナル制度を運用するのであればまずこの点を頭に入れてきましょう。

 

労使双方にとってメリットのある制度に

2018年6月末現在の高度プロフェッショナル制度は詳しい運用ルールが決まっておらず、労使関係にどのような影響をもたらすかは未知数です。現時点で言えるのは、この制度を労使双方にとって実のあるものにするためには、組織全体で「成果の基準」を明確にする必要があるということです。今後の高度プロフェッショナル制度の動向を見守りつつ、組織レベルでアクションを起こしていきましょう。

 

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■参照

[1]http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-32.pdf
[2]https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2017_press.pdf
[3]https://www.lancers.co.jp/news/pr/14679/
[4]http://biz-journal.jp/2018/05/post_23372.html